「有酸素は20分続けないと脂肪が燃えない」を確かめます

結論

運動時間が延びると脂肪が使われる割合は上がる。ただし1日1回と複数回に分けた運動を比べた試験では分けた群のほうがよく減り、メタ分析でも分割が不利になっていない。20分という区切りに根拠はない。

「有酸素運動は20分を超えてから脂肪が燃えはじめる」。

なぜこう言われるのかから見ていきます。

元になっている現象は、実在する

運動中、体は糖と脂肪を同時に使っています。どちらか一方ではありません。

そして時間が経つほど、糖(グリコーゲン)が減っていくぶん、脂肪の使われる割合が上がります。

運動中の脂肪の酸化量は、強度を段階的に変えながら連続して測ることができます。その測定の手順を検討した研究を見ると、低い強度の段階から脂肪の酸化はずっと測られています。 「ある時間を過ぎたら脂肪が使われはじめる」という前提で測っている研究は見当たりません。

つまり「時間が経つと脂肪の割合が上がる」は本当です。

問題は、そこから**「20分までは燃えない」に飛んでいる**ところです。20という数字が測定から出てきた形跡はありません。

「割合」と「量」は別のもの

ここが混同されやすい点です。

仮に、こういう2つの場面があるとします。

消費エネルギー 脂肪の割合 脂肪由来
最初の10分 80 kcal 40% 32 kcal
30分目からの10分 80 kcal 55% 44 kcal

後半のほうが割合は高い。それでも、最初の10分でも32kcalぶんの脂肪は使われています。 ゼロではありません。

「燃えはじめる」という言い方が誤解を生んでいるだけで、スイッチが入る瞬間は存在しません。

分けて運動したらどうなったか

理屈より、実際に比べた試験を見るほうが早いです。

食事制限で減量中の女性65人を、2つの群にランダムに割り付けた24週間の試験があります。1日1回50分まとめて歩く群と、25分を1日2回に分ける群です。

結果は、分けた群のほうが約1.7kg多く減っていました。 差がなかったのではなく、分割したほうが良かった、という結果です。

過体重の若い女子大学生で、1日1回の運動と複数回に分けた運動を比べた試験もあります。こちらは有酸素能力の向上も体重減少も、両者は同等でした(38人、割り付けはランダムではありません)。

メタ分析でも、分割が不利にはならない

連続と分割を健康指標全般で比べたメタ分析では、多くの項目で差がありませんでした。そのうえで、体重は分割のほうが平均0.92kg多く減っていました。週150分を超える運動では、体脂肪率にも0.87ポイントの差が出ています。

「20分続けないと意味がない」が正しければ、10分×3回の群は不利になるはずです。実際には、不利になっていません。

なぜそうなるのか

体脂肪が減るかどうかは、**1日(あるいは1週間)を通じたエネルギーの収支**で決まります。運動中に何が燃えていたかではありません。

運動中に糖を多く使えば、そのあと食べた糖はグリコーゲンの補充に回り、脂肪に回る量が減ります。運動中に脂肪を多く使えば、その分あとで糖が使われる。帳尻は時間をかけて合います。

だから、運動中の一瞬の燃料の内訳を気にしても、体脂肪の増減はほとんど動きません。

代わりに、10分で出る

この記事でいちばん変えたいのは、**「30分取れない日にどうするか」**です。

その日の判断 上乗せされる消費
30分取れないから、今日はやめる 0 kcal
10分だけ歩く 約35 kcal(体重70kg)

ゼロと35の差です。倍率では計算できません。

しかも週5日ぶん積めば175kcal、月にすれば700kcal超。20分に届かない日を切り捨てていた人ほど、ここが効きます。

そしてもう1つ。10分出てしまえば、そのまま歩き続ける日がかなりあります。 靴を履くところまでが重いので、そこを10分の口実で越えてしまう。

では、どうするか

  1. 30分取れない日は、10分だけ出る。0kcalが35kcalになります
  2. 1回の長さより、週の合計を見る。週何分動いたかのほうが効きます
  3. 分けていい。10分×3回と30分1回で、結果に差は出ていません
  4. 「20分に届かなかったから無駄だった」と記録しない。10分は10分ぶん効いています
  5. 運動中の心拍数や「脂肪燃焼ゾーン」は、そこまで気にしなくていい

「どうせ30分取れないから今日はやめよう」で失うのは、その日の運動ではなく習慣のほうです。10分でも出てしまえば、そのまま歩き続ける日がかなりあります。

まとめ

  • 運動中は糖と脂肪を同時に使っている。時間が経つと脂肪の割合が上がるのは事実
  • ただし最初の10分でも脂肪は使われている。スイッチが入る瞬間はない
  • 10分×複数回と1回まとめての比較では、体重の減り方に差がなかった
  • メタ分析では、むしろ分割したほうがわずかに良い結果
  • 体脂肪の増減を決めるのは1日の収支で、運動中の燃料の内訳ではない

20分に届かない日も、やった意味はあります。

出典

この記事を書くために当たった研究です。同じ「出典あり」でも重みは違うので、どういう種類の研究かを1件ずつ添えました。 メタ分析やRCTは因果を言える設計、観察研究や数理モデルはそこまで言えません。

  1. 系統的レビューEffects of Accumulated Short Bouts of Exercise on Weight and Obesity Indices in Adults: A Meta-Analysis. American Journal of Health Promotion. 2020doi:10.1177/0890117119872863短い運動を1日に何回かに分けて積み上げる介入を集めたメタ分析。積み上げる形の運動で、体重・BMI・体脂肪率などが有意に減った。**1回にまとめて行う方法との優劣を比べたものではない。**
  2. RCTEffect of a Long Bout Versus Short Bouts of Walking on Weight Loss During a Weight-Loss Diet: A Randomized Trial. Obesity. 2019doi:10.1002/oby.22416減量中の食事制限を行っている女性65人を、1日1回50分まとめて歩く群と、25分を1日2回に分ける群にランダムに割り付けた24週間の試験。**分割した群のほうが約1.7kg多く減った(P=0.019)。**著者らは「1日2回の短い運動に分けるほうが減量には効果的かもしれない」と結論している。
  3. ヒト実験Effects of long versus short bout exercise on fitness and weight loss in overweight femalesdoi:10.1080/07315724.2001.10719058過体重の若い女子大学生38人を対象に、1日1回の運動と1日複数回に分けた運動を12週間比べた試験。食事制限中の有酸素能力の向上と体重減少について、両者は同等だったと報告されている。**群への割り付けはランダムではない**と明記されており、各群8〜12人と小規模。
  4. 系統的レビューThe Effects of Continuous Compared to Accumulated Exercise on Health: A Meta-Analytic Review. Sports Medicine. 2019doi:10.1007/s40279-019-01145-2連続した運動と、分割して積み上げた運動の健康への影響を比較した研究を集めたメタ分析。多くの指標で両者に差がない。**ただし体重(平均差 -0.92kg)とLDLでは分割のほうが有利で、週150分を超える運動では体脂肪率にも差(-0.87%)が出ている。**
  5. ヒト実験Optimizing Maximal Fat Oxidation Assessment by a Treadmill-Based Graded Exercise Protocol: When Should the Test End?doi:10.3389/fphys.2019.00909運動中の脂肪の酸化量を、強度を段階的に上げながら測定する手順を検討した研究。**主題はテストをいつ打ち切るかという測定方法の話**だが、その測定は低い強度から連続して行われており、脂肪の酸化が特定の時間を境に始まるという扱いにはなっていない。