エネルギー収支だけ分かっていれば、新しいデマに揺れなくて済む

結論

体重を動かすのはエネルギー収支だけ。食べる時間も食べ合わせも食品の種類も、収支を変える範囲でしか効かない。この判定基準を1つ持てば、新しいダイエット法が出るたびに調べ直す必要がなくなる。

毎年、新しいダイエット法が出てきます。

去年は断食、その前は糖質制限、さらに前はバナナやりんご。来年もまた何か出ます。 そのたびに「これは本当なのか」と調べていたら、一生が終わります。

全部を覚える必要はありません。1つだけ分かっていれば、残りは自分で判定できます。

この記事は、その1つを説明するためのものです。

原則:体重を動かしているのは収支だけ

体重を動かすのは、入ってくるエネルギーと出ていくエネルギーの差です。

  • 入ってくる量 > 出ていく量 → 余ったぶんが蓄えられる
  • 入ってくる量 < 出ていく量 → 足りないぶんを蓄えから取り崩す

これだけです。人間の体もエネルギー保存則の外には出られません。

重要なのはここからです。「では食べる時間は関係ないのか」「食べ合わせは」「この食品は」—— 関係します。ただし、収支を変える範囲でしか関係しません

夜遅く食べると太る、と言われます。夜に食べると体が脂肪を蓄えやすくなるから、ではありません。 夜に食べる人は総摂取量が多くなりがちだからです。同じ話が、ほとんどの「◯◯すると太る」に当てはまります。

出ていく側の内訳

「消費カロリー」は1つの塊ではなく、4つの成分でできています。おおよその比率はこうです。

成分 中身 総消費に占める割合の目安
基礎代謝(BMR) 何もしなくても消える分。呼吸、心拍、体温維持 約60〜70%
食事誘発性熱産生(TEF) 食べた物を消化・吸収・代謝するコスト 約10%
運動による消費(EAT) 意図的な運動 人による(0〜数十%)
非運動性活動熱産生(NEAT) 家事、通勤、立つ、貧乏ゆすり、姿勢の維持 人による。ここが曲者

多くの人が「基礎代謝を上げれば痩せる」と考えます。しかし基礎代謝は主に体の大きさ(特に除脂肪量)で決まるため、短期間で大きく動かせません。

一方、NEATは驚くほど個人差があります

「体質」の正体の一部は、NEAT

非肥満の16名に、1日1,000kcalの過剰摂取を8週間続けさせた研究があります。全員が同じだけ余分に食べました。

結果、脂肪の増え方に10倍の差が出ました。

その差を最もよく説明したのは、基礎代謝でも遺伝子でもなく、NEATの変化でした(相関係数0.77)。 たくさん食べたときに、無意識によく動くようになる人と、ならない人がいる。それだけの違いです。

これは、「太りやすい体質」と呼ばれているものの一部の正体です。 魔法でも呪いでもなく、日常の動きの量の差です。

そして減量中には、この逆が起きます。食べる量を減らすと、無意識に動かなくなります。 階段を避ける、外出が減る、動作がゆっくりになる。本人は気づきません。

だから「運動もしているのに痩せない」の答えは、たいてい 「運動で増えた消費を、それ以外の時間の不活発さが食べている」です。 歩数計を見ればすぐ分かります。

入ってくる側:「何を食べるか」より「どれだけ食べるか」

では、何を食べるかは関係ないのでしょうか。

名前のついた各種ダイエット法を比較したランダム化試験のメタ分析があります。 低炭水化物系、低脂質系、その他いろいろ。結果はこうでした。

栄養素構成による減量幅の差は、小さい。

そして著者らの結論は、こうです。

患者が続けられる食事法を勧めるべきである。

つまり、「どの方法か」より「その方法を続けられるか」のほうが結果を左右するということです。

これは「何を食べてもいい」という意味ではありません。 満腹感、栄養、続けやすさは食品によって違います。 ただ、減量の成否を決めているのは食品の種類ではなく、続いたかどうかだという話です。

この基準で、デマを自分で判定する

ここまで分かれば、新しい主張が来たときに聞くべき質問は1つになります。

その方法は、収支をどう変えるのか?

答えは3種類に分かれます。

① 摂取が減る、と説明できる → 妥当

「タンパク質を増やすと満腹感が続いて食べる量が減る」「食物繊維の多い食事は自然に摂取が減る」 これは機構として成立しています。効果の大きさは控えめですが、嘘ではありません。

② 消費が増える、と説明できる → 効果量を確認する

「筋トレで除脂肪量が増えると基礎代謝が上がる」 成立はします。ただし大きさを見てください。 組織ごとの安静時代謝率を評価した研究によれば、骨格筋は1kgあたり1日約13kcalです。 筋肉を1kg増やして増える基礎代謝は、ゆで卵1個ぶんにも届きません

ついでに言うと、安静時エネルギー消費の約60%は、体重の5〜6%しかない臓器(肝臓・脳・心臓・腎臓)から生じています。 肝臓は1kgあたり1日200kcal、脳は240kcal、心臓と腎臓は440kcal。骨格筋の13kcalとは桁が違います。

「筋肉をつけて代謝を上げる」が語られるほどの効果を持たないのは、このためです。 筋トレには他の価値(除脂肪量の維持、体型、健康)が十分ありますが、基礎代謝の底上げは主な理由になりません。 「代謝が劇的に上がる」と言われたら、必ず何kcalか聞くこと。

③ 収支を変えずに痩せる、と説明する → 疑う

「食べる順番を変えるだけで」「これを飲むだけで」「カロリーは関係ない」 収支を経由しない痩せ方は、人間の体では起こりません。 「チートデイで代謝がリセットされる」も、この③にあたります。

この3つの分類は、来年出てくる新しい方法にもそのまま使えます。 だから調べ直す必要がありません。これが「1つだけ分かっていればいい」の意味です。

ただし「単純」と「簡単」は違う

ここを混同すると、今度は別の苦しみが生まれます。

原則が単純なことと、実行が簡単なことは、まったく別です。

  • 自分が何kcal食べたかを正確に知るのは、かなり難しい
  • 自分が何kcal消費しているかは、推定値しか得られない
  • 体重は水分で日々2kg動くので、短期間では収支の結果が見えない

「収支で決まる」は正しい。でも「だから簡単でしょ」にはなりません。 うまくいかないときに責めるべきは意志ではなく、測定の精度です。 このあたりは停滞期の記事で詳しく書きました。

「1日500kcal減らせば週0.5kg」も、そのままでは成り立たない

最後に、この記事で使っている計算の限界も書いておきます。

「体脂肪1kg=7,200kcal。だから1日500kcalの赤字で週0.5kg」—— これは最初の数週間の目安としては使えますが、長期の予測には使えません。

理由は単純で、体重が減ると維持カロリーも下がるからです。 80kgの体より75kgの体のほうが、維持に必要なエネルギーは少ない。 同じ食事を続けていれば、赤字は自然に縮んでいきます。

これを数理モデルで検証した研究では、体重の応答は遅く、変化の半減期はおよそ1年とされています。 静的な計算は、実際より速い減量を予測してしまう。

つまり、思ったより遅いのが正常です。 そして、減量にともなって消費エネルギーは下がりますが、その大きさは1日80〜90kcal程度。 ペースは鈍りますが、止まりはしません。

まとめ

  • 体重を動かすのはエネルギー収支だけ。他の要因は、収支を変える範囲でしか効かない
  • 消費の内訳は基礎代謝・食事誘発性熱産生・運動・NEAT。動かしやすいのはNEAT
  • 同じだけ過食しても脂肪の増え方に10倍の差が出る。差を作るのはNEAT
  • 食事法の比較メタ分析の結論は「続けられる方法を選べ」
  • 新しい方法が来たら「収支をどう変えるのか」だけ聞けばいい
  • 原則が単純でも実行は簡単ではない。難しいのは測ることであって、意志の強さではない

新しいダイエット法は、来年もまた出ます。 そのとき、また一から調べ直す必要はありません。質問は1つだけでいい。

覚えることが減るというのは、それ自体が、ダイエットを続けやすくします。

出典

この記事を書くために当たった研究です。同じ「出典あり」でも重みは違うので、どういう種類の研究かを1件ずつ添えました。 メタ分析やRCTは因果を言える設計、観察研究や数理モデルはそこまで言えません。

  1. 系統的レビューJohnston BC, Kanters S, et al. Comparison of weight loss among named diet programs in overweight and obese adults: a meta-analysis. JAMA. 2014;312(9):923-933doi:10.1001/jama.2014.10397名前のついた各種ダイエット法を比較したランダム化試験のメタ分析。低炭水化物か低脂質かといった栄養素構成による差は小さく、結論は「患者が続けられる方法を勧めるべき」だった。
  2. ヒト実験Levine JA, Eberhardt NL, Jensen MD. Role of nonexercise activity thermogenesis in resistance to fat gain in humans. Science. 1999;283(5399):212-214doi:10.1126/science.283.5399.212非肥満の16名に1日1,000kcalの過剰摂取を8週間続けさせた研究。脂肪の増え方に10倍の個人差が出て、その差を最もよく説明したのが非運動性活動熱産生(NEAT)の変化だった(r=0.77)。n=16の小規模研究。
  3. 数理モデルHall KD, Sacks G, Chandramohan D, Chow CC, Wang YC, Gortmaker SL, Swinburn BA. Quantification of the effect of energy imbalance on bodyweight. Lancet. 2011;378(9793):826-837doi:10.1016/S0140-6736(11)60812-X「1ポンド=3,500kcal、1日500kcal減らせば週1ポンド減る」という静的な計算が、体重変化にともなう代謝の変化を無視していることを示した数理モデル研究。体重の応答は遅く、半減期はおよそ1年とされる。
  4. 観察研究Wang Z, et al. Evaluation of specific metabolic rates of major organs and tissues: Comparison between men and women. Am J Hum Biol. 2011doi:10.1002/ajhb.21137臓器・組織ごとの安静時代謝率を評価した研究。Eliaが1992年に示した値(骨格筋13kcal/kg/日、脂肪組織4.5kcal/kg/日、肝臓200、脳240、心臓・腎臓440)を踏まえている。安静時エネルギー消費の約60%は、体重の5〜6%しかない臓器から生じている。
  5. 系統的レビューNunes CL, Casanova N, Francisco R, Bosy-Westphal A, Hopkins M, Sardinha LB, Silva AM. Does Adaptive Thermogenesis occur after weight loss in adults? A systematic review. Br J Nutr. 2022;127(3):451-469doi:10.1017/S000711452100109433研究・被験者2528名の系統的レビュー。減量にともなって消費エネルギーは下がるが、その大きさは睡眠時エネルギー消費で1日あたり約80〜90kcal相当。