消費カロリーの内訳を見ると、「代謝を上げる」の狙いどころが変わります

結論

消費カロリーは基礎代謝60〜70%、食事による消費約10%、身体活動20〜30%に分かれる。身体活動の大半は運動ではなく日常の動きで、この部分は食事を減らすと自動的に落ちる。「代謝を上げる」で本当に動く余地があるのはここ。

「代謝を上げれば痩せる」と言われます。

上げようとしている代謝が、消費全体のどこにあたるのか。内訳を見ておくと、どこを触れば動くのかが分かります。

3つに分かれる

座って過ごすことが多い成人では、1日の消費エネルギーはおおむねこう分かれます。

項目 割合 1日2,000kcalの人なら
基礎代謝・安静時代謝 60〜70% 1,200〜1,400 kcal
食事による消費 約10% 約200 kcal
身体活動 20〜30% 400〜600 kcal

体をよく動かす仕事の人や、本格的に運動している人では、身体活動が総消費の50%まで上がることもあります。

「代謝を上げる」という言葉が狙っているのは、たいてい一番上の基礎代謝です。全体の3分の2を占めているので、ここが上がれば効きそうに見える。

ところが、ここが一番動かしにくい。

基礎代謝が動かしにくい理由

基礎代謝の大部分は、内臓と脳と筋肉が生きているだけで使うエネルギーです。

筋肉を増やせば上がりますが、筋肉1kgが1日に使うのは十数kcal程度。1kg増やして、1日20kcal未満。 これは1年かけて増やせるかどうかの量です。

体温を上げる、代謝を上げる食品、といった話も、効果量で見ると同じくらいの規模になります。無意味ではありませんが、1日数十kcalの世界です。

食事による消費は、10%前後で固定

食べたものを消化・吸収する過程でもエネルギーを使います。これが約10%。

栄養素によって差があり、タンパク質が最も大きい。ただし、食事の総量が同じなら、この項目も総量に比例します。つまり食べる量を減らすと、ここも一緒に減ります。

PFCの配分を変えて稼げるのは、1日あたり数十kcal程度です。

残った20〜30%が、実は主戦場

身体活動のうち、意識してやる運動が占める割合は多くありません。

大半は、立つ・歩く・家事をする・階段を使う・そわそわ動く、といった日常の動作です。この合計は、活動的な人では総消費の最大50%にもなり、座りがちな人では6〜10%にとどまります。

同じ体格の人でも、生活の仕方で総消費が大きく変わる。 この差を作っているのが、ここです。

そして、ここは自分では気づかずに動く

重要なのはこの性質です。

過食させた研究では、この部分が増えた人ほど脂肪の増加が小さかったと報告されています。1日1,000kcal多く食べさせても、無意識によく動くようになる人は太りにくい。

減量中にこれが逆向きに働くかどうかは、その研究が測ったことではありません。ただ、体格の似た2人でこの部分が1日2,000kcal違いうるとされています。気づかないうちに大きく動く項目であることは確かです。

自覚はほとんどありません。歩く速度が少し落ちる、階段よりエスカレーターを選ぶ、夜に早く座る。1つひとつは小さく、合計は無視できない。

停滞期の説明としてよく「代謝が落ちた」と言われます。基礎代謝より、こちらが動いている可能性のほうを先に疑うほうが、確かめようがあります。歩数なら測れるので。

代わりに、座っている時間に手を入れる

「代謝を上げる」に向ける労力を、内訳の下のほうに回すとどうなるか。

やること 1日あたりの効果 かかる期間
筋肉を1kg増やして基礎代謝を上げる 約13〜20 kcal 半年〜1年
1日のうち6時間を座位から立位に置き換える 約54 kcal 今日から
30分歩く 約100 kcal 今日から

筋肉1kgを1年かけて増やして、1日13〜20kcal。 30分歩けば、その日のうちに100kcalです。

筋トレに意味がないという話ではありません。除脂肪量を保つ役割は別にあります。ただ、「代謝を上げて痩せる」という目的に対しては、効率のいい入口ではないということです。

一番上の行だけが「時間がかかる」欄で年単位になっている。ここが答えです。

では、どうするか

  1. 「代謝を上げる」に向けていた労力を、座位を減らすほうに移す。今日から効きます
  2. 日常の活動が落ちていないかを見る。歩数の記録は、体重より早く変化が出ます
  3. 減量が進んで停滞したら、摂取を減らす前に歩数を確認する。落ちているほうが多い
  4. 筋トレは続ける。ただし目的を「代謝を上げる」ではなく「除脂肪量を守る」に置き換える
  5. 1時間座ったら数分立つ。これだけで積み上がります

私が停滞したとき、まず疑ったのは食事でした。実際に減っていたのは歩数のほうで、1日9,000歩だったのが6,000歩になっていました。自分では気づいていませんでした。

まとめ

  • 座りがちな人の消費は、基礎代謝60〜70%、食事による消費約10%、身体活動20〜30%
  • 基礎代謝は一番大きいが、一番動かしにくい。筋肉1kgで1日十数kcal
  • 食事による消費は総量に比例する。配分で稼げるのは数十kcal
  • 身体活動の大半は運動ではなく日常の動き。ここが個人差を作っている
  • そしてここは、食べる量を減らすと自動的に落ちる

「代謝を上げる」に使う労力の大半は、日常の活動を落とさないことに回したほうが効きます。

出典

この記事を書くために当たった研究です。同じ「出典あり」でも重みは違うので、どういう種類の研究かを1件ずつ添えました。 メタ分析やRCTは因果を言える設計、観察研究や数理モデルはそこまで言えません。

  1. 総説Non-exercise activity thermogenesis (NEAT): a component of total daily energy expenditure. Journal of Exercise Nutrition & Biochemistry. 2018;22(2):23-30doi:10.20463/jenb.2018.0013運動以外の身体活動による消費についての総説。立つ・歩く・家事・そわそわ動くといった動作の合計を指し、活動的な人では総消費の最大50%を占める一方、座りがちな人では6〜10%にとどまるとしている。
  2. 総説Nonexercise activity thermogenesis – liberating the life-force. Journal of Internal Medicine. 2007doi:10.1111/j.1365-2796.2007.01842.x運動以外の身体活動による消費を扱った総説。体格の似た2人でも、この部分が1日2,000kcal違いうるとしている。エネルギー収支に応じて増減するという議論の出どころで、過食実験(Levine 1999)を引いている。
  3. 総説Nonexercise activity thermogenesis (NEAT): environment and biology. Am J Physiol Endocrinol Metab.doi:10.1152/ajpendo.00562.2003運動以外の身体活動による消費が、環境と生物学的な要因によってどう決まるかを扱った総説(2004年)。日常の動作の量そのものが、環境と体質の両方に左右されるとしている。
  4. ヒト実験Validity and reproducibility of a whole-room indirect calorimeter for measurement of the thermic effect of fooddoi:10.14814/phy2.70740食事誘発性熱産生(食べたものを消化・吸収する過程で使われるエネルギー)を部屋ごと測る装置で検証した研究。参加者10人。この項目が測定可能な大きさで存在することの確認として参照した。**ただし原典の主結果は「再現性が低い」ことのほうで、変動係数27.5%、級内相関24%。精度よく測れるという含意で使ってはいけない。**