停滞期は「体の防御機能」ではない

結論

代謝適応は実在するが、その大きさは1日90〜180kcal程度。1日500kcalの赤字を帳消しにする力はない。体重が止まる理由の大半は、水分の変動と、摂取量が思っているより多いことで説明がつく。

「2週間、体重が1gも動きません」

ダイエットをしていると、必ずこの時期が来ます。そして検索すると、こう説明されます。

停滞期は、体が飢餓状態だと判断して防御機能を発動させている状態です。代謝を落として体重を守ろうとしているので、このままでは痩せません。

この説明は、実在する現象を10倍に膨らませたものです。代謝が下がること自体は本当に起きます。ただ、その大きさは「体重を守る」というほどのものではありません。

この記事では、体重が止まった4週間で実際に何が起きているのかを、数字で分解します。

まず、比較の土台を作る

体脂肪1kgを減らすのに必要な赤字は、慣用的に約7,200kcalとされます。体脂肪組織は純粋な脂質ではなく水分なども含むため、この値には幅がありますが、桁の議論には十分です。 (この計算が長期の予測には使えない理由はエネルギー収支の記事に書きました)

体重80kg、維持カロリーが1日2,400kcalの人を例にします。

  • 1日500kcalの赤字 → 1週間で3,500kcal → 体脂肪で週約0.49kg
  • 4週間で約2.0kg

この「週0.5kg」を基準に、以下の要因がそれぞれどれだけ削るかを見ていきます。

理由1:代謝は下がる。ただし1日90〜180kcal

減量すると消費カロリーは確実に下がります。ただしここには、性質の違う2つが混ざっています。

(a) 体が小さくなったぶん下がる 80kgの体より75kgの体のほうが、維持に要するエネルギーは少ない。これは適応でも防御でもなく、単に質量が減っただけです。誰にでも起きるし、計算で予測できます。

(b) 体重・体組成から予測される以上に下がる これが本来の意味での「代謝適応(adaptive thermogenesis)」です。甲状腺ホルモンT3の低下、レプチンの低下、交感神経活動の低下などが関わります。

問題は(b)の大きさです。レビューで報告されている範囲は、おおむね1日90〜180kcal

ここは根拠の強さが重要なので補足します。33の研究・被験者2,528名を集めた系統的レビューでも、代謝適応は繰り返し確認されています。実在を疑う話ではありません。 ただしそのレビューで睡眠時エネルギー消費から算出された値は、1日あたりおよそ80〜90kcal相当でした。

つまり、複数の研究を統合しても出てくる答えは「実在する。ただしこの程度の大きさ」です。

先ほどの例に当てはめます。

1日の赤字 週あたりの体脂肪減
適応なし 500kcal 約0.49kg
適応 −90kcal 410kcal 約0.40kg
適応 −180kcal 320kcal 約0.31kg

減量ペースは確かに落ちます。しかし止まりません。1日500kcalの赤字を完全に打ち消すには、1日500kcalの代謝適応が必要です。

その数字に見覚えがある人もいるはずです。「ビッグルーザー」という減量番組の出場者を追跡した研究で、6年後も1日約499kcalの代謝適応が残っていたと報告されました。「代謝は壊れる」の根拠として最もよく引かれる研究です。

ただし条件を見てください。30週間で平均58.3kgの減量です。1日3〜4時間の運動と極端な食事制限を課したテレビ番組の出場者、14名。あなたが2か月で3kg落とそうとしている状況とは、比較の対象になりません。

さらに付け加えると、同じ研究グループを含む2022年の報告では、代謝適応の大きさは1年後のリバウンドを予測しなかったとされています。代謝適応は実在しますが、減量の成否を決める主役ではないということです。

理由2:体重計に乗っているのは脂肪だけではない

ここが、体感としての「停滞期」の正体に最も近い部分です。

グリコーゲン1gには、約3gの水が付随します。 肝臓と筋肉に蓄えられるグリコーゲンは合計400〜500g程度。つまりグリコーゲンが満タンか空かだけで、1.6〜2kgの体重差が生まれます。

実測もあります。高炭水化物食を4日間続けた研究では、体重が2.4kg増え、そのうち2.2Lが体水分でした。脂肪は増えていません。

体重を動かす、脂肪以外の要因を並べます。

  • グリコーゲンと結合水:炭水化物の摂取量次第で1〜2kg
  • 塩分:ナトリウム摂取が増えると水分貯留。ラーメンの翌日に1kg増えるのはこれ
  • 消化管の内容物:食物繊維の量や排便のタイミングで0.5〜1kg
  • 月経周期:黄体期の水分貯留で1〜2kg(該当する方)
  • 筋グリコーゲンと炎症:慣れない運動をした直後は筋肉に水が入る

これらは合計で2kg以上、数日単位で動きます。一方、週あたりの真の体脂肪減は0.3〜0.5kg。

つまり、ノイズがシグナルの4倍以上あるのです。「2週間動かない」は、多くの場合「0.8kgの脂肪が減ったが、1kgの水が乗ったので隠れている」という状態です。防御機能ではなく、引き算の問題です。

理由3:たいてい、思っているより食べている

そして、最も直視したくない要因がこれです。

1992年のNEJMの研究は、「低カロリー食を守っているのに痩せない」と訴えた被験者を対象に、実際の摂取量と消費量を測定しました。結果は、申告より実際の摂取量が平均47%多く、運動量は51%過大申告されていました。

研究チームの結論は明確です。痩せない原因は代謝の異常ではなく、報告されている以上に食べていることだった——。

この研究は詳細解析が10名と小規模ですが、その後の二重標識水法を使った多くの研究でも、摂取エネルギーの過少申告は繰り返し確認されています。

誤解のないように書きますが、これは嘘をついているという話ではありません

  • 調理油をスプーン1杯多く使う:+約110kcal
  • 「ひとくちだけ」のつまみ食い×1日3回:+150〜300kcal
  • 米の計量を目分量に切り替える:±100kcal
  • 週末2日だけ記録をやめる:週あたり+1,000〜2,000kcal

最後の項目が効きます。平日5日を完璧にこなしても、週末2日の緩みで週の赤字は消えます。

実際、冒頭に挙げた数理モデルの研究はまさにこれを検証しました。6か月時点の停滞期を、「代謝適応」で説明しようとしたモデルと、「断続的に遵守が崩れる」で説明したモデルの2つで再現したところ、代謝適応モデルでは停滞が起きる時期を説明できず、遵守が断続的に崩れるモデルのほうが実際の体重グラフの形に一致しました。

しかもこの研究は、かなり遵守できている人でも6か月の停滞は起こりうることを示しています。責める話ではありません。「代謝のせいではなく、収支のせいだ」という、原因の置き場所の話です。

理由4:そもそも「止まった」の判定が雑

週1回、朝いちばんに1回だけ測る——多くの人がこうしています。しかしノイズが2kgある系で1点測定をすれば、先週がたまたま低く出て今週がたまたま高く出れば、実際には減っていても「増えた」と表示されます

やるべきことは1つです。

毎日同じ条件で測り、7日移動平均で見る。

起床後、排尿後、食事前、同じ体重計。日々の数字は無視して、移動平均の線だけを見ます。これだけで、見せかけの停滞の大半は消えます。

では、本当に止まっているときは何をするか

移動平均で3週間以上、明確に横ばいなら、それは実際に収支が均衡しています。順番はこうです。

  1. 測り直す。 3日間だけでいい。調味料と油と飲み物を含めて、全部記録する。ほぼここで原因が見つかります。
  2. 目標を更新する。 5kg減れば維持カロリーも下がります。減量開始時の設定のままなら、赤字は自然に縮んでいます。
  3. 活動量を確認する。 減量中は無意識の活動量(NEAT)が落ちます。歩数を見れば分かります。
  4. それでも動かないなら、摂取を1日100〜200kcal減らすか、活動を増やす。 小さく刻みます。

ここにチートデイは入っていません。「代謝が落ちたからリセットする」という前提自体が、上で見たとおり成り立たないからです。1日2,000kcalの過食は、1週間分の赤字(3,500kcal)の半分以上を消します。詳しくはチートデイの記事に書きました。

まとめ

  • 代謝適応は実在する。ただし1日90〜180kcal。減量ペースは鈍らせるが、止めはしない
  • 1日500kcalの赤字を帳消しにする代謝適応は、30週で58kg落とすような極端な条件でしか観測されていない
  • 体重は水分だけで2kg以上動く。週の脂肪減0.3〜0.5kgは、その中に埋もれる
  • 「痩せない」の最大の原因は、記録より多く食べていること。これは意志の弱さではなく、測定の問題
  • 対策は、毎日測って7日移動平均で見ること。話はそこから

あなたの体は、あなたを飢えさせまいと必死に抵抗しているわけではありません。ただ、入ってきたぶんと出ていったぶんを、淡々と足し引きしているだけです。

それは悪い知らせではありません。防御機能が相手なら打つ手はありませんが、足し算が相手なら、どこがずれているかを探せばいいからです。

出典

この記事を書くために当たった研究です。同じ「出典あり」でも重みは違うので、どういう種類の研究かを1件ずつ添えました。 メタ分析やRCTは因果を言える設計、観察研究や数理モデルはそこまで言えません。

  1. 系統的レビューNunes CL, Casanova N, Francisco R, Bosy-Westphal A, Hopkins M, Sardinha LB, Silva AM. Does Adaptive Thermogenesis occur after weight loss in adults? A systematic review. Br J Nutr. 2022;127(3):451-469doi:10.1017/S000711452100109433研究・被験者2528名を対象とした系統的レビュー。15研究で有意な代謝適応が確認され、確認されなかったのは3研究。睡眠時エネルギー消費でみた値は1日あたり約−335〜−377kJ(約80〜90kcal)。代謝適応は「実在するが、この程度の大きさ」という結論を最も強く支えている出典。
  2. 数理モデルThomas DM, Martin CK, Redman LM, Heymsfield SB, et al. Effect of dietary adherence on the body weight plateau: a mathematical model incorporating intermittent compliance with energy intake prescription. Am J Clin Nutr. 2014;100(3):787-795doi:10.3945/ajcn.113.079822熱力学第一法則に基づく2つの数理モデルで6か月時点の停滞期を再現した研究。代謝適応モデルでは停滞の「時期」を説明できず、遵守が断続的に崩れるモデルのほうが実測の体重グラフに一致した。実測ではなくモデルである点は割り引いて読む必要がある。
  3. ヒト実験Lichtman SW, et al. Discrepancy between self-reported and actual caloric intake and exercise in obese subjects. N Engl J Med. 1992;327:1893-1898doi:10.1056/NEJM199212313272701「食べていないのに痩せない」と訴える被験者を二重標識水法などで実測。申告より実際の摂取量が平均47±16%多く、運動量は51±75%過大申告されていた。ただし詳細解析は10名の小規模研究。
  4. 総説Adaptive thermogenesis after moderate weight loss: magnitude and methodological issues. Eur J Nutr. 2022 (PMID: 34839398)体組成の変化で説明できる分を差し引いた「純粋な代謝適応」の大きさを扱ったレビュー。報告されている範囲は概ね1日90〜180kcal。測定方法によって値がばらつく問題も指摘している。
  5. 観察研究Fothergill E, et al. Persistent metabolic adaptation 6 years after "The Biggest Loser" competition. Obesity. 2016;24(8):1612-1619doi:10.1002/oby.2153830週で平均58.3kg減という極端な条件下で、6年後も1日約499kcalの代謝適応が残っていた追跡研究。14名。「代謝は壊れる」の根拠によく使われるが、条件が一般的な減量と大きく異なる。
  6. 観察研究Metabolic adaptation is not a major barrier to weight-loss maintenance. Am J Clin Nutr. 2022過体重の女性171名を2年間追跡し、安静時代謝量を間接熱量測定で繰り返し測った縦断研究。代謝適応の大きさは1年後の体重リバウンドを予測しなかった。
  7. ヒト実験Olsson KE, et al. Variation in total body water with muscle glycogen changes in man. Acta Physiol Scand. 1970;80(1):11-18doi:10.1111/j.1748-1716.1970.tb04764.xグリコーゲン1gあたり約3gの水が付随することを示した古典的研究。この比率には2.7〜4gと幅がある。
  8. ヒト実験Segmental extracellular and intracellular water distribution and muscle glycogen after 72-h carbohydrate loading using spectroscopic techniques. J Appl Physiol. 2016doi:10.1152/japplphysiol.00126.20164日間の高炭水化物摂取で体重が2.4kg増加し、そのうち2.2Lが体水分の増加だった。脂肪の増減とは無関係に体重が数kg動く実例。