血糖値が上がると太る、は本当か。研究者の間でまだ決着していません
インスリンが脂肪の蓄積を助けるのは事実。ただしカロリーを揃えた入院試験では、インスリン分泌が多い高炭水化物食のほうが体脂肪が減った。「血糖値を上げなければ痩せる」は、いまのところ支持されていない。ただし論争は続いている。
「血糖値が急に上がるとインスリンが出て、余った糖が脂肪に変わる」
この説明、聞いたことがあると思います。私も最初はそう理解していました。
前半は本当で、後半の飛躍が問題です。しかもこの話は、研究者の間でもまだ決着がついていません。片方の立場だけを紹介すると偏るので、両方書きます。
インスリンが何をしているかは、争いがない
血糖値が上がるとインスリンが出て、糖を細胞に取り込ませる。同時に脂肪の分解を抑え、蓄積のほうへ傾ける。ここは教科書どおりで、誰も否定していません。
問題は次の一段です。
だから、血糖値を上げない食べ方をすれば痩せる
この飛躍が成り立つかどうかが、炭水化物-インスリン仮説と呼ばれて20年近く議論されているところです。
カロリーを揃えて比べたら、どうなったか
決め手になるのは、摂取カロリーを厳密に揃えた比較です。普通の食事指導で比べると、食べる量そのものが変わってしまって切り分けられません。
そこで入院管理下で、食事を完全にコントロールした試験が行われました。低脂質・高炭水化物食(インスリンがよく出る)と、低炭水化物食(あまり出ない)の比較です。
仮説の予測はこうでした。インスリンが多い高炭水化物食のほうが、脂肪が蓄積されやすいはずだ。
結果は逆でした。
被験者全員が高炭水化物・低脂質食のときに摂取カロリーが少なく、インスリン分泌が明らかに多いにもかかわらず、体脂肪の減少はむしろ大きかった
仮説のレビューでも、管理された摂食試験によって重要な予測は反証されたとされています。 モデルは単純すぎる、という結論です。
ただし、論争は終わっていません
ここで終わらせると片手落ちになります。
仮説を支持する側は、この入院試験の再解析を出しました。低炭水化物食を先にやった群と後にやった群で、摂取量に持ち越し効果があったという指摘です。 そのため食事そのものの差は統計的に有意ではなかった、と主張しています。
これに対してさらに反論が出ています。2024年の時点でも応酬が続いていて、決着したとは言えません。
高GL食がインスリンとグルカゴンの比を変え、脂肪の蓄積へ基質を振り向ける。だから過食は肥満の結果であって原因ではない——という主張も、査読誌に載っている立場です。
私はどちらが正しいかを判定できる立場にありません。 できるのは、現時点でどちらにどれだけの根拠があるかを示すことだけです。
で、どうすればいいのか
実用上の判断は、実はそこまで難しくありません。
どちらの立場でも、摂取カロリーを減らせば体重が減ること自体は否定されていないからです。争っているのは「同じカロリーなら食事の中身で差が出るか」という点で、その差はあったとしても大きくありません。
そのうえで、血糖値を気にする実利はあります。
- 食後に眠くなりにくくなる。これは体感しやすい
- 空腹が来るのが遅くなることがある。結果として総量が減る
- 糖尿病のリスクに関わる。こちらは体重とは別の、確立した話
つまり血糖値への配慮は、**「痩せるため」ではなく「食べすぎにくくするため」**と考えると収まりがいい。 もうひとつは健康のためです。
心配しなくていいこと
- 一度の血糖値スパイクで脂肪が増える、わけではない。1日の収支を超えることは起きません
- 白米を食べたら終わり、ではない。総量の問題です
- GI値を暗記する必要もない。実際の食事は組み合わせで決まるので、単品のGI値はあまり当てになりません
血糖値に向ける注意を、記録の精度に回したほうが早い。この記事の結論はそこに落ち着きます。
代わりに、3日だけ全部書く
血糖値の対策に手間をかけるのと、記録に手間をかけるの。得られるものを並べます。
| 3日間、これをやる | 分かること |
|---|---|
| GI値の低い食品を選んで食べる | 食後の血糖の振れ幅が少し小さくなる |
| 食べたものを全部書く(調味料・飲み物・つまみ食いも) | 自分が1日に何kcal食べているか |
下が分かると、その先の判断が全部できるようになります。いまが維持カロリーの上なのか下なのか、どこを削れば効くのか。血糖値をいくら整えても、この問いには答えが出ません。
3日でいい理由は、それ以上続かないからです。7日と決めると4日目でやめます。3日なら終わります。
そして3日ぶん書けば、たいてい「思っていたより300kcalくらい多い」が見つかります。ここが効きます。
まとめ
- インスリンが脂肪の蓄積を助けるのは本当。ここは争いがない
- 「だから血糖値を上げなければ痩せる」は別の話で、カロリーを揃えた入院試験では逆の結果が出ている
- ただし再解析による反論があり、論争は決着していない
- どちらの立場でも、摂取を減らせば減ることは否定されていない
- 血糖値への配慮は「痩せるため」ではなく「食べすぎにくくするため」と「健康のため」と考えると整理しやすい
血糖値そのものより、その日に何をどれだけ食べたかを見るほうが早い。ベジファーストのような食べ方の工夫も、結局そこに戻ってきます。
出典
この記事を書くために当たった研究です。同じ「出典あり」でも重みは違うので、どういう種類の研究かを1件ずつ添えました。 メタ分析やRCTは因果を言える設計、観察研究や数理モデルはそこまで言えません。
- 総説Flawed reanalysis fails to support the carbohydrate-insulin model of obesity. J Nutr. 2024doi:10.1016/j.tjnut.2024.01.024炭水化物-インスリン仮説の再解析に対する反論。入院管理下の試験では、被験者全員が高炭水化物・低脂質食のときに摂取カロリーが少なく、インスリン分泌は明らかに多いにもかかわらず体脂肪の減少が大きかったと整理している。
- 総説Hall KD. A review of the carbohydrate–insulin model of obesity. Eur J Clin Nutr. 2017doi:10.1038/ejcn.2016.260仮説の主要な予測を、管理された摂食試験の結果と突き合わせたレビュー。重要な部分は実験的に反証されており、モデルは単純すぎると結論している。
- 総説The carbohydrate-insulin model: a physiological perspective on the obesity pandemic. Am J Clin Nutr. 2021;114(6):1873-1885doi:10.1093/ajcn/nqab270反対側の立場。高GL食がインスリンとグルカゴンの比を変えて脂肪の蓄積へ基質を振り向け、過食は肥満の結果であって原因ではないとする主張。この記事はこちらの主張も同じ重みで扱っている。
- 資料Physiologic Adaptation to Macronutrient Change Distorts Findings from Short Dietary Trials: Reanalysis of a Metabolic Ward Studydoi:10.1016/j.tjnut.2023.12.017入院試験の再解析。低炭水化物食を先に行った群と後に行った群で摂取量に持ち越し効果があり、食事そのものの差は有意でなかったと主張している。上記の反論はこの再解析に向けられている。