太らない体質の人の体では、何が起きているのか
同じだけ余分に食べさせても、脂肪の増え方には10倍の差が出る。差の大半を説明していたのは無意識の活動量(NEAT)で、遺伝の関与も一卵性双生児の実験で示されている。体質は実在するが、収支の外側にある力ではない。
学生時代の私は、マヨネーズをドカ盛りにした唐揚げ丼を食べ、週に3回は二郎系のラーメンを食べていました。それで体重は60kg台のままでした。
当時は「自分は太らない体質だ」と思っていました。いま同じ食生活に戻したら、間違いなく太ります。
何が変わったのか。研究のほうから見ていきます。
同じだけ食べさせて、増え方を比べた実験がある
成人16人に、1日1,000kcal多く食べさせ、8週間続けた研究があります。
全員に同じ量を上乗せしているので、入ってくる側は揃っています。それでも結果は揃いませんでした。
脂肪の増え方に10倍の差が出ています。
同じだけ余分に食べているのに、ほとんど増えない人と、しっかり増える人がいた。ここまでは「体質」という言葉が指しているとおりです。
差を説明していたのは、無意識の活動量だった
研究者が調べたのは、その差がどこから来ているかでした。
見つかったのはNEAT(運動以外の日常活動による消費)です。姿勢を保つ、立ち上がる、歩く、そわそわ動く。運動と呼ばないものの合計です。
増えた総消費エネルギーのうち、3分の2がこれにあたりました。
つまり体は、余分に入ってきたぶん、無意識に動く量を増やして捨てていた。増え方が小さかった人ほど、この反応が大きかったわけです。
ここは数字の読み方に注意がいります。
| 正しい読み方 | 違う読み方 |
|---|---|
| 無意識の活動量が増えて、消費が増えた | 代謝が勝手に上がって燃やした |
| 本人の自覚なしに起きている | 意識して動いた結果 |
| 上乗せ分を全部は捨てきれていない(全員増えてはいる) | 体質次第で太らずに済む |
全員、体重は増えています。 増え方に差があっただけです。
遺伝も効いている
もう1つ、設計の違う研究があります。
一卵性双生児12組に、1日1,000kcalを週6日、計84日間上乗せしたものです。合計で84,000kcal、体脂肪に換算すると11kg分を超える量になります。
平均では8.1kg増えました。ただし幅は4.3〜13.3kgと大きい。
面白いのはここからで、同じペアどうしは増え方が似ていました。 ペア間の差のほうが、ペア内の差よりも約3倍大きかったとされています。
遺伝の関与は実在します。「気合が足りない」で片付けられる話ではありません。
「体質」を分解すると
ここまでを並べ直すと、体質と呼ばれているものの中身が見えます。
| 中身 | 動かせるか |
|---|---|
| 無意識の活動量(NEAT)の反応しやすさ | 生活の作り方で変わる |
| 体格。大きい体ほど基礎代謝も活動の消費も大きい | 減量すると下がる |
| 遺伝的な増えやすさ | 動かせない |
| 年齢。20歳までは消費が高い。20〜60歳は横ばい | 動かせない |
| 食欲の出方の個人差 | 一部は睡眠や食事内容で変わる |
動かせないものも含まれています。 同じ生活をしても人によって結果が違うのは本当です。
ただし、どれも収支の中で起きています。 入ってくる量と出ていく量のどちらかを通らずに体重が動くことはありません。
「年齢で代謝が落ちた」は、どこまで本当か
もう1つ、体質の説明によく使われるものがあります。年齢です。
生後8日から95歳までの6,421人を、29か国で二重標識水法により測定した研究があります。エネルギー消費の測定としては最も精度の高い方法です。
結果は、こうでした。
| 年齢 | 1日の消費エネルギー(除脂肪量を揃えて比較) |
|---|---|
| 〜20歳ごろ | 大人より高く、20歳に向けて下がっていく |
| 20〜60歳 | ほぼ横ばい |
| 60歳〜 | 下がる |
ここは読み方に注意がいります。
| 正しい読み方 | 違う読み方 |
|---|---|
| 除脂肪量を揃えれば、20〜60歳で横ばい | 体格が変わっても消費は変わらない |
| 筋肉が減れば、実際の基礎代謝は下がる | 年齢そのものでは下がらないので何もしなくていい |
| 20歳までは本当に高い | 30代で代謝が落ちる |
つまり**「30代になって代謝が落ちたから太った」は、データと合いません。** 20〜60歳は横ばいです。
一方で、10代の消費が高かったのは本当です。 学生時代に太らなかった理由の一部は、ここにあります。
代わりに、当時の1日を書き出してみる
残りはどこから来ているのか。学生の1日を活動ごとに分解すると、桁が見えてきます。
体重60kgとして、メッツ表から計算した見積もりです。座っている状態との差だけを出しています。
| 活動 | 時間 | 1日あたりの上乗せ |
|---|---|---|
| 通学の徒歩(往復) | 40分 | 約 126 kcal |
| 体育の授業 | 45分×週2〜3回 | 約 68 kcal |
| 部活動 | 2時間×週5回 | 約 450 kcal |
| 休み時間に動き回る | 計30分 | 約 95 kcal |
| 階段の昇降 | 計10分 | 約 35 kcal |
| 合計 | 約 775 kcal/日 |
対して、いまのデスクワークの1日はどうか。通勤で往復20分歩くとして、上乗せは約63kcalです。
差は1日あたり約710kcal。 体脂肪に換算すると、10日ちょっとで1kg分になります。
これは「体育があったから」という話ではありません。全部足すと、1日700kcal台という量になるという話です。同じものを食べていても、収支がまったく違います。
⚠️ メッツ表と時間から計算した見積もりです。部活の種目や通学距離で大きく変わります。 運動部でなかった場合、部活の行を外すと合計は約325kcal。それでもいまの5倍です。 自分の場合を知りたければ、当時と今の活動を同じように書き出してみてください。
私は野球部と軽音楽部の兼部でした。唐揚げ丼と週3回の二郎系ラーメンで平気だった理由は、ここにあります。1日700kcalの上乗せと、10代の消費の高さ。
体質が変わったのではなく、両方とも無くなりました。
では、どうするか
- 昔と今の活動を、上の表のように書き出して比べる。食べた量より先に、動いていた量を見る
- 歩数を1週間だけ記録する。日常の活動量で、いちばん手軽に数字になる部分です
- 「年齢で代謝が落ちた」で止めない。20〜60歳は横ばいなので、変わったのはたいてい活動量のほうです
- 増えやすい人は、上乗せ分が捨てられにくいと考えて枠を作る。収支のほうを管理する
- 同じ体重の人と比べない。遺伝の関与は実在するので、比べても情報になりません
まとめ
- 16人に1日1,000kcal上乗せした実験で、脂肪の増え方に10倍の差が出た
- 差を最もよく説明していたのは無意識の活動量(NEAT)。増えた消費の3分の2
- 一卵性双生児12組の実験では、増え方が4.3〜13.3kgと幅があり、ペア内で似ていた
- ただしどの研究でも全員が増えている。太らない体質ではなく、増えにくい体質
- 除脂肪量を揃えると、1日の消費は20〜60歳で横ばい。落ちるのは20歳までと60歳以降
- 学生の1日を書き出すと、通学・体育・部活・階段で1日約775kcalの上乗せになる(見積もり)
学生時代の自分に戻れないのは、体質が変わったからではありません。動く量が変わっただけです。
出典
この記事を書くために当たった研究です。同じ「出典あり」でも重みは違うので、どういう種類の研究かを1件ずつ添えました。 メタ分析やRCTは因果を言える設計、観察研究や数理モデルはそこまで言えません。
- ヒト実験Role of Nonexercise Activity Thermogenesis in Resistance to Fat Gain in Humans. Science. 1999;283(5399):212-214doi:10.1126/science.283.5399.212成人16人に1日1,000kcal多く食べさせ、8週間続けた研究。脂肪の増え方には10倍の差が出た。差を最もよく説明していたのは無意識の活動量(NEAT)の変化で、増えた総消費エネルギーの3分の2がこれにあたる。ランダム化はされておらず、全員に同じ量を上乗せした設計。
- ヒト実験The Response to Long-Term Overfeeding in Identical Twins. New England Journal of Medicine. 1990doi:10.1056/NEJM199005243222101一卵性双生児12組に、1日1,000kcalを週6日、計84日間上乗せした研究(合計84,000kcal)。平均で8.1kg増えたが、幅は4.3〜13.3kgと大きい。同じペアどうしは増え方が似ており、ペア間の差のほうがペア内の差より約3倍大きかった。遺伝の関与を示している。
- 観察研究Daily energy expenditure through the human life course. Science. 2021doi:10.1126/science.abe5017生後8日から95歳までの6,421人を、29か国で二重標識水法により測定した研究。除脂肪量を揃えて比べると、1日の消費エネルギーは20〜60歳のあいだほぼ横ばいで、下がるのは60歳以降だった。20歳までは体重あたりの消費が大人より高い。測定は各時点の横断的なもので、同じ人を追跡したものではない。
- 総説Non-exercise activity thermogenesis. Proceedings of the Nutrition Society. 2003;62(3):667-679doi:10.1079/PNS2003281運動以外の日常活動による消費(NEAT)についての総説。姿勢の保持、歩行、そわそわした動きなどが含まれ、個人差が大きいとされている。
- 資料改訂第2版『身体活動のメッツ(METs)表』成人版(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所/出典 Compendium of Physical Activities)活動ごとの強度をメッツで示した一覧。歩行はおよそ3〜4メッツ、階段をゆっくり上るのが4.5メッツ、卓球やバレーボールが4メッツ(バレーボールの試合は6メッツ)。この記事の消費エネルギーの見積もりはこの表を使って計算した。