電気を消して寝たほうが痩せるのか。研究はどこまで言っているか

結論

光そのものが脂肪を増やす経路はない。効くとすれば「眠りが浅くなって翌日よけいに食べる」という摂取側の経路で、睡眠を削った試験では消費は変わらず摂取だけが1日約300kcal増えている。消すのはタダなのでやっていいが、消し忘れた日を心配する必要はない。

「寝るときは真っ暗にしないと太る」。

この話には、珍しくまとまった研究があります。ただし、言えることと言えないことがはっきり分かれます。

43,722人を追った研究

35〜74歳の女性43,722人を追跡したコホート研究があります。交代勤務の人、日中に眠る人、妊娠中の人は除かれています。

就寝中の光の量を聞いて、その後の体重の変化と照らし合わせた結果がこうです。

就寝中の光 5kg以上増えた人の割合
部屋の照明やテレビを点けている 1.17倍
豆電球 差なし
無灯 差なし
部屋の外からの光 関連はより弱い

光が強いほど関連が強い、という量的な関係が見えています。

⚠️ ただしこの表は「5kg以上増えた人の割合」の話です。「肥満と判定される状態になった割合」で見ると、豆電球でも1.15倍、部屋の外からの光でも1.20倍。どちらも差が出ています。「豆電球なら完全に無関係」とまでは言えません。

「17%高い」の意味を、先に押さえてください

この結果はよく「17%高い」と紹介されます。ここは誤読されやすいところです。

割合そのものが17ポイント増えた、という意味ではありません。

照明を点けずに寝た人のうち、5kg以上増えた人の割合を1とします。点けて寝た人では、それが1.17倍だったという意味です。元の割合が何%かによって、実際の差は変わります。

肥満と判定される状態になった人の割合についても、同じ形で報告されています。こちらは1.33倍(95%信頼区間 1.13〜1.57)でした。

どちらも「何人に何人」ではなく「何倍」の数字です。

ただし、これは観察研究です。

観察研究が言えないこと

照明を点けたまま寝る人と、消して寝る人。この2群は、光以外もいろいろ違います。

夜更かしの習慣、就寝時刻の不規則さ、テレビを見ながら食べること、寝室の環境そのもの。こうした要因が体重の側にも効いていた可能性を、この設計では切り分けられません。

つまり「光のせいで太った」とは言えない。 言えるのは「一緒に起きやすい」までです。

この話は「収支で決まる」と矛盾しないのか

ここが引っかかる人は多いと思います。私もそうでした。

このブログでは「体重を動かすのは摂取と消費の差だけ」と書いてきました。照明が体重に効くなら、摂取か消費のどちらかを通っているはずです。光が直接脂肪を増やす経路はありません。

しかも先ほどの研究は、食べた量を揃えていません。 質問票で光の環境を聞いて体重の変化と照らしただけなので、両群が同じだけ食べていたかは分からない。

では、どちらを通っているのか。候補は3つあります。

① 消費が減る? — 測られていて、変わっていない

「眠りが浅いと消費エネルギーが減るのでは」という説明は、筋が通って聞こえます。ところがここは実際に測られています。

睡眠を3.5時間に削る条件と7時間の条件を、同じ人で入れ替えて比べたランダム化試験があります。部屋ごとの熱量測定で48時間続けて消費を測ったものです。

結果は、24時間の総消費エネルギーは変わりませんでした。それどころか、夜間の消費は3.5時間条件のほうが高かった。起きている時間が長いぶん、当然といえば当然です。

消費側は、この現象を説明しません。

② 摂取が増える? — こちらは変わる

同じ試験で、空腹感は増え、満腹を伝えるホルモン(PYY)は下がっていました。

別のランダム化試験では、睡眠を制限した群が1日あたり約300kcal多く食べていました。内臓脂肪も増えています。消費のほうには、それに見合う変化はありませんでした。

動いているのは摂取側です。収支の式の、左辺のほう。

③ そもそも光のせいではない?

テレビをつけたまま寝る人は、光以外も違います。就寝時刻、夜更かし、寝ながら食べる習慣。観察研究はここを切り分けられません。

結局こうなります

主張 言えるか
光そのものが脂肪を増やす 言えない。そんな経路はない
光 → 眠りが浅い → 翌日の食べる量が増える これなら収支と矛盾しない
光を消せば消費が増えて痩せる 測られていて、消費は変わらない

「データがあるから消したほうがいい」ではありません。眠りが浅くなると翌日よけいに食べる。その入口を1つ減らすという話です。

体重が減るとしたら、それは光ではなく、減った食事のぶんです。

実験のほうでは何が測られたか

そこで、光そのものの作用を調べた実験があります。

健康な成人20人を、2つの条件にランダムに割り付けたものです。就寝中に100ルクスの照明を当てる条件と、3ルクス未満の暗い条件です。

結果は、照明のもとで寝た翌朝、インスリン抵抗性の指標が有意に高くなりました。主にインスリン値の上昇によるものです。就寝中の心拍数も上がり、深い睡眠とレム睡眠の時間が減っていました。

ランダムに割り付けているので、こちらは光の作用として読めます。

ただし2つ、押さえておいてください。人数は20人。 そして測っているのは体重ではなく、一晩後の代謝の指標です。

結局、どこまで言えるのか

並べるとこうなります。

  • 就寝中の照明と体重増加には関連がある。ただし因果は言えない
  • 効くとすれば経路は「眠りが浅くなる → 翌日の摂取が増える」。消費側は測られていて動かない
  • 光が代謝の指標に影響することは、小さな実験で示されている
  • 電気を消したら体重が減った、を示した研究は見当たりませんでした

最後が欠けている以上、「消せば痩せる」とは書けません。書けるのは「食べすぎる入口が1つ減る」までです。

それでも、消していいと思う理由

ここは正直に書きます。消すことのコストがゼロだからです。

この記事で扱ってきた他の話(散歩、立ち仕事、食べる順番)は、どれも時間や我慢を要求します。だから効果量と見比べる必要がありました。

照明を消すのは、スイッチを押すだけです。効果が不確かでも、失うものがない。 そういう選択肢は、そう多くありません。

睡眠の質という別の理由もあります。深い睡眠とレム睡眠が減っていたという結果は、体重とは無関係に受け取っていい情報だと思います。

ただし、心配事を増やさないでください

この記事の目的は、新しい禁止事項を作ることではありません。

  • 消し忘れた日に、体重を気にする必要はありません。一晩の照明で測られたのはインスリンの指標であって、脂肪ではない
  • 常夜灯を使っている人は、そのままで構いません。5kg以上の増加では差が出ていません
  • 真っ暗だと眠れない人、防犯上つけている人、小さい子どもがいる人。無理に消す理由はありません
  • 遮光カーテンを買い足す前に、まず体重の記録を見てください。効果量の桁が違います

代わりに、寝る時刻のほうを見る

この記事は「消すのはタダだからやっていい」で終わってもいいのですが、それだと手元に何も残りません。もう一段あります。

照明のために何かを買おうとしているなら、同じ手間を先にこちらへ回してください。

やること かかるもの 見込めること
遮光カーテン・アイマスクを買う 数千円 体重への効果は確認されていない
寝る時刻を30分早める 0円 睡眠時間が伸びる。翌日の食欲に効く
寝室からテレビを消す 0円 光と、夜更かしの原因が同時に消える

3つめが効率的です。テレビを消すと光がなくなるだけでなく、寝る時刻そのものが早くなる。 元の研究で最も強い関連が出ていたのも「テレビを点けたまま」の群でした。

光だけの問題として対処するより、光と夜更かしをまとめて1つ消すほうが早い、ということです。

私は元々、豆電球をつけて寝る派でした。この話を知ってから、10年以上ずっと消して寝ています。

特に効果を実感しているわけではありません。 それでも、病は気からと言いますし、太るかもしれない可能性は消しておくに越したことはないと思っています。スイッチを押すだけなので。

まとめ

  • 43,722人の研究で、照明やテレビを点けたまま寝た人は5kg以上増えた割合が1.17倍だった(割合が17ポイント増えたという意味ではない)
  • ただし食べた量は揃えていない観察研究なので、光が原因だとは言えない
  • 効くとすれば経路は摂取側。睡眠を削った試験では、消費は変わらず摂取が1日約300kcal増えた
  • 光が代謝の指標に影響することは、20人の小さな実験で示されている
  • 消して痩せたことを示した研究は見当たらない

消すのはタダなのでやっていい。ただ、消し忘れた日を悔やむほどの話ではありません。

出典

この記事を書くために当たった研究です。同じ「出典あり」でも重みは違うので、どういう種類の研究かを1件ずつ添えました。 メタ分析やRCTは因果を言える設計、観察研究や数理モデルはそこまで言えません。

  1. 観察研究Association of Exposure to Artificial Light at Night While Sleeping With Risk of Obesity in Women. JAMA Internal Medicine. 2019doi:10.1001/jamainternmed.2019.057135〜74歳の女性43,722人を対象としたコホート研究(Sister Study)。交代勤務者・日中に眠る人・妊娠中の人は除外されている。就寝中に部屋の照明やテレビを点けていた人は、追跡期間中に5kg以上増えた人の割合が1.17倍だった。肥満と判定される状態になった割合は1.33倍(95%信頼区間 1.13〜1.57)。いずれも「何倍か」を示す相対的な数字であって、割合が17ポイント・33ポイント増えたという意味ではない。**5kg以上の増加では豆電球や無灯の人に差は出ていないが、肥満の発生では豆電球1.15倍・部屋の外の光1.20倍といずれも有意**なので、どの指標の話かを分けて読む必要がある。体重は本人の申告、光の量も本人の申告による。観察研究なので因果は言えない。
  2. RCTLight exposure during sleep impairs cardiometabolic function. PNAS. 2022doi:10.1073/pnas.2113290119健康な成人20人を、就寝中に100ルクスの照明を当てる条件と、3ルクス未満の暗い条件にランダムに割り付けた実験。照明のもとで寝た翌朝はインスリン抵抗性の指標が有意に高く、主にインスリン値の上昇によるものだった。就寝中の心拍数が上がり、深い睡眠とレム睡眠の時間が減っていた。人数が20人と少なく、測っているのは体重ではない。
  3. RCTEffect of shortened sleep on energy expenditure, core body temperature, and appetite: a human randomised crossover trial. Scientific Reports. 2017doi:10.1038/srep39640睡眠を3.5時間に削る条件と7時間の条件を、同じ人で入れ替えて比べたランダム化クロスオーバー試験。部屋ごとの熱量測定で48時間連続して消費エネルギーを測っている。睡眠を削っても24時間の総消費エネルギーは変わらず、夜間の消費はむしろ3.5時間条件のほうが高かった。一方で空腹感は増え、満腹感を伝えるホルモン(PYY)は下がっていた。
  4. RCTEffects of Experimental Sleep Restriction on Energy Intake, Energy Expenditure, and Visceral Obesity. Journal of the American College of Cardiology. 2022doi:10.1016/j.jacc.2022.01.038睡眠を制限する群と通常の睡眠を保つ群にランダムに割り付けた試験。制限した群では1日あたり約300kcal多く食べており、内臓脂肪が増えていた。消費エネルギーのほうには相応の変化がなかった。
  5. 総説Non-exercise activity thermogenesis (NEAT): a component of total daily energy expenditure. Journal of Exercise Nutrition & Biochemistry. 2018;22(2):23-30doi:10.20463/jenb.2018.0013消費エネルギーの構成についての総説。体重の増減がエネルギー収支で決まるという前提を確認するために参照した。