「寝不足だと太る」は本当か。動くのは代謝ではなく食べる量

結論

睡眠を削ると消費エネルギーも安静時代謝もほとんど変わらず、食べる量が1日385kcal増える。眠りを1.2時間延ばした試験では逆に摂取が270kcal減った。効いているのは摂取側であって、代謝が落ちるからではない。

「寝不足だと代謝が落ちて太る」。

前半と後半で、証拠の強さがまったく違う話です。太りやすくなるのは測定されています。ただし代謝は落ちていません。

どこを通って体重が動くのかが分かると、やることが変わります。

比較の土台を置く

体脂肪1kgは約7,200kcalです。

この記事でいちばん大きい数字は「1日385kcal」。毎日続いたとすると、19日で体脂肪1kgぶんの黒字になります(385kcalから逆算した見積もりです)。

無視できる大きさではありません。だからこそ、それがどこから来ているのかを確かめる価値があります。

観察研究では、関連が繰り返し出ている

成人604,509人ぶんのデータを集めたメタ分析があります。睡眠時間が短い人は、肥満の起きやすさが1.55倍でした。

この「1.55倍」は、**起きやすさの比(オッズ比)**です。人数の比ではありません。「10人が15.5人になる」という読み方はできません。

なお同じ解析で、小児では1.89倍と別の値が出ています。大人と子どもをまとめて語れる話ではありません。

そしてもう1点。これは観察研究をまとめたものです。

この解析から言えること 言えないこと
睡眠が短い人に肥満が多い 短い睡眠が肥満を招いた
関連の大きさ 太っているから眠りが浅い、という逆向き
— 夜勤や生活習慣が両方に効いている可能性

因果を知りたいなら、実際に睡眠を削ってみた試験を見るしかありません。

削ったときに動いたのは、摂取だった

睡眠を部分的に削った介入試験を集めたメタ分析があります。

摂取エネルギーは1日385kcal増えていました(95%信頼区間 252〜517kcal)。一方で、総消費エネルギーにも安静時代謝にも、はっきりした変化はありませんでした。

385kcalが何を測った数字かを確かめておきます。

正しい読み方 違う読み方
食べた量が385kcal増えた 代謝が385kcalぶん落ちた
出ていく側は測られていて、動いていない 寝ないと燃費が悪くなる
起きている時間が長いぶんも含めた1日の合計 夜食だけで385kcal

別のランダム化試験でも、睡眠を制限した群は1日あたり約300kcal多く食べていました。内臓脂肪も増えています。消費のほうには、それに見合う変化はありませんでした。

寝不足で太るとすれば、通っているのは口のほうです。

「代謝が落ちる」はどこから来たのか

起きている時間が長ければ、そのぶん消費は少し増えます。逆に、疲れて動かなくなれば減ります。

両方が起きて打ち消し合うのか、もともと小さいのか。理由はまだ整理しきれていませんが、測った結果として1日の消費は動いていません。

だから「寝不足の日は代謝が落ちているから運動しても無駄」にはなりません。

逆向きにもやってみた試験がある

削るのではなく、延ばすとどうなるか。

習慣的に6.5時間未満しか眠っていない過体重の成人80人を対象にした試験があります。睡眠衛生の個別指導を1回受けただけで、睡眠時間は平均1.2時間延びました。

その2週間で、摂取エネルギーは1日あたり約270kcal減っています。 総消費エネルギーには差がなく、収支は赤字側に動きました。

注意点も書いておきます。期間は2週間で、対象は80人。もともと短い睡眠だった人に限った結果です。すでに7時間眠っている人が8時間にしても同じことが起きる、という話ではありません。

270kcalは、どれくらいか

他の行動と並べると、大きさが見えます。

選択 1日の収支への効き
電車で1時間立ち続ける 約 −9 kcal(消費が増える)
眠りを1.2時間延ばす 約 −270 kcal(食べる量が減る)

同じ「1時間ちょっと」の使い道で、30倍の差があります。

2つの数字は別のものを測っていることだけ補足しておきます。立位は消費側、睡眠は摂取側の測定です。収支への効き方として並べています。

立ち続けても1時間で9kcalです。寝不足を抱えたまま立ち時間を増やすより、眠るほうが収支は動きます。

代わりに、寝不足の日の食事を先に決める

とはいえ、眠れない日はあります。仕事でも育児でも、選べないことのほうが多い。

そこで効くのは、寝不足そのものではなく翌日の食事のほうを動かすことです。増えていたのは摂取側なので、そこを塞げば収支は変わりません。

寝不足の翌日をどう過ごすか 1日の収支
いつも通りに過ごす 約 +385 kcal(実測の平均)
昼と間食をあらかじめ決めておく ほぼ ±0

385kcalは菓子パン1個と缶コーヒーくらいです。前の晩に決めておけば止まる大きさで、意志の力で我慢する話ではありません。

では、どうするか

  1. 眠れる日は眠る。1.2時間の延長で摂取が270kcal減った試験があります
  2. 眠れなかった翌日は、昼と間食を先に決めておく。増えるのは食べる量のほうです
  3. 寝不足の日も、いつも通り動いていい。消費は測って落ちていません
  4. 寝不足の朝に体重が増えていても、日々の変動の範囲です。1日の数字で判断しない
  5. 睡眠を削って運動時間を作るのは、収支で見ると割に合わないことがあります

気をつけること

眠れない状態が続いている場合、生活の工夫でどうにかする話ではなくなります。不眠が2週間以上続くときや、日中の眠気が強いときは医療機関にご相談ください。 睡眠時無呼吸のように、治療の対象になるものもあります。

まとめ

  • 短い睡眠と肥満の関連は繰り返し報告されている。ただし観察研究では因果は言えない
  • 実際に睡眠を削った試験をまとめると、摂取が1日385kcal増えていた
  • 総消費エネルギーも安静時代謝も、測った範囲では変わっていない
  • 眠りを1.2時間延ばした試験では、逆に摂取が270kcal減った(対象は短時間睡眠の過体重の成人80人・2週間)
  • 動いているのは摂取側。だから、寝不足の日は翌日の食事のほうを決めておけばいい

寝不足の日に増えるのは食欲であって、落ちるのは代謝ではありません。手の打ちどころは、思っているより手前にあります。

出典

この記事を書くために当たった研究です。同じ「出典あり」でも重みは違うので、どういう種類の研究かを1件ずつ添えました。 メタ分析やRCTは因果を言える設計、観察研究や数理モデルはそこまで言えません。

  1. 系統的レビューThe effects of partial sleep deprivation on energy balance: a systematic review and meta-analysis. European Journal of Clinical Nutrition. 2017;71(5):614-624doi:10.1038/ejcn.2016.201睡眠を部分的に削った介入試験を集めたメタ分析。摂取エネルギーは1日385kcal増えていた(95%信頼区間 252〜517kcal)。一方で、総消費エネルギーにも安静時代謝にも有意な変化は見られなかった。差し引きで黒字になるため、長期的には体重増加につながりうるとまとめている。
  2. RCTEffect of Sleep Extension on Objectively Assessed Energy Intake Among Adults With Overweight in Real-life Settings: A Randomized Clinical Trial. JAMA Internal Medicine. 2022doi:10.1001/jamainternmed.2021.8098習慣的に6.5時間未満しか眠っていない過体重の成人80人を対象にした2週間の試験。睡眠衛生の個別指導だけで睡眠時間が平均1.2時間延び、摂取エネルギーが1日あたり約270kcal減った。総消費エネルギーには差がなく、収支は赤字側に動いている。期間が2週間と短い点には注意がいる。
  3. 観察研究Meta-Analysis of Short Sleep Duration and Obesity in Children and Adults. Sleep. 2008;31(5):619-626doi:10.1093/sleep/31.5.619成人604,509人ぶんのデータを集めたメタ分析。睡眠時間が短い人は肥満のオッズが1.55倍だった(95%信頼区間 1.43〜1.68)。小児では1.89倍と別の値。ただし観察研究なので、短い睡眠が肥満を招いたのか、その逆か、別の要因が両方に効いているのかは、この解析からは言えない。
  4. RCTEffects of Experimental Sleep Restriction on Energy Intake, Energy Expenditure, and Visceral Obesity. Journal of the American College of Cardiology. 2022doi:10.1016/j.jacc.2022.01.038睡眠を制限する群と通常の睡眠を保つ群にランダムに割り付けた試験。制限した群では1日あたり約300kcal多く食べており、内臓脂肪が増えていた。消費エネルギーのほうには相応の変化がなかった。