基礎代謝より食べていないのに痩せない。原因は5つあります
基礎代謝の数字は実測ではなく推定式の出力で、±10%に収まるのは約55%の人だけ。1,500kcalなら誤差は±150kcal。痩せない理由の多くは意志ではなく、この誤差と記録のズレと活動量の低下が重なったもの。
「基礎代謝が1,500kcalなのに、1,300kcalしか食べていません。なのに減りません」
いただく相談で、これがいちばん多いです。そして、たいていの場合こう言われます。「食べなさすぎて省エネモードに入っているのでは」と。
その説明は成り立ちません。減量で代謝が落ちるのは本当ですが、その幅は1日65〜230kcal程度です。ではなぜ減らないのか。
原因は5つあって、多くの場合は複数が同時に起きています。ひとつずつ潰していけば、どれかに当たります。
その前に。1,500kcalという数字はどこから来たか
いきなり足元の話で恐縮ですが、ここが最大の落とし穴です。
体組成計やアプリが出す基礎代謝は、実測値ではありません。身長・体重・年齢・性別を推定式に入れた計算結果です。実測するには専用の装置で呼気を測る必要があります。
では、その推定式はどれくらい当たるのか。
主要な3つの式(Harris-Benedict、Mifflin、WHO)を実測値と比べた研究があります。 ±10%以内に収まったのは、対象者の55〜58%程度でした。系統的レビューでも、式ごとの優劣はあるものの個人に当てはめたときの誤差は無視できないとされています。
裏を返すと、4割以上の人は10%以上ずれていることになります。
1,500kcalの10%は150kcal。本当の基礎代謝が1,350kcalだったら、1,300kcalを食べている時点で赤字は50kcal。 1kg減るのに144日かかる計算です。
「基礎代謝以下なのに」の前提が、そもそも半々の確率で外れている。
原因① 推定値がずれている
上のとおりです。対策はひとつしかありません。
数字そのものではなく、実際の増減で確かめる。 2〜3週間の体重の動きから、自分の維持カロリーを逆算するほうが、どんな推定式より正確です。
たとえば1,300kcalで3週間まったく動かなかったなら、あなたの維持カロリーは今おおよそ1,300kcal。それが実測値です。式が何と言おうと、体が出した答えのほうが正しい。
原因② 記録と、実際に食べた量が違う
避けて通れない話です。
「低カロリー食を守っているのに痩せない」と訴えた被験者を実測した研究があります。 実際に食べていた量を基準にすると、申告はその47%ぶん少なめでした。 言い換えると、実際に食べていた量は申告の約1.9倍。運動量は逆に51%多く申告されていました。
念のため書きますが、これは嘘をついているという話ではありません。
- 調理油をスプーン1杯多く使う … +約110kcal
- 「ひとくちだけ」を1日3回 … +150〜300kcal
- 米を目分量で盛る … ±100kcal
- 週末2日だけ記録をやめる … 週あたり+1,000〜2,000kcal
最後がいちばん効きます。平日5日を1,300kcalで通しても、週末2日で取り戻せば週平均は1,600kcalを超えます。
3日でいいので、調味料と飲み物を含めて全部記録してみてください。 ここで原因が見つかる人がかなりの割合でいます。
原因③ 消費のほうも落ちている
食べる量を減らすと、無意識に動かなくなります。
過剰摂取の研究では、同じだけ食べても脂肪の増え方に10倍の差が出ました。 その差を最もよく説明したのが、非運動性活動熱産生(NEAT)の変化です。家事、通勤、立つ、姿勢を保つ。意図しない動きの総量です。
減量中には、この逆が起きます。階段を避ける、外出が減る、動作がゆっくりになる。本人はまず気づきません。
ここで状況によって話が変わります。
筋トレをしている場合
体重が動かなくても、中身が入れ替わっている可能性があります。脂肪が減って筋肉が増えれば、体重は横ばいのまま体型だけ変わる。特に筋トレを始めて数か月の人に起きます。この場合は体重ではなく、鏡・服のサイズ・ウエスト周りで判断してください。
食事制限だけの場合
NEATの低下がそのまま消費の減少になります。歩数計を見てください。減量前より明らかに減っていたら、それが答えです。意識して歩数を戻すだけで、収支は動きます。
原因④ 水分で隠れている
体重は脂肪と無関係に動きます。
グリコーゲン1gには約3gの水が付随し、貯蔵量は400〜500g。これだけで1.6〜2kgの差が出ます。塩分、消化管の内容物、月経周期も乗ります。
一方、1日200kcalの赤字で減る脂肪は週に0.2kg弱。ノイズがシグナルの10倍あります。
毎日同じ条件で測って、7日移動平均で見てください。それだけで見せかけの停滞の大半は消えます。
原因⑤ 期間が短い
1日200kcalの赤字は、1週間で1,400kcal。体脂肪にして0.19kgです。
日々のノイズが±1kgあるなかで、0.19kgの変化を1週間で読み取るのは無理があります。最低でも3週間は見てください。
では、どうするか
順番があります。上から順に潰してください。
- 3日だけ全部記録する。 調味料・油・飲み物を含めて。ここで見つかることが多い
- 歩数を減量前と比べる。 落ちていたら戻す
- 毎日測って7日移動平均で見る。 判定はここでする
- 3週間続けて、それでも動かなければ維持カロリーを逆算し直す。 推定式は捨てて実測に切り替える
- そのうえで、摂取を1日100〜200kcalだけ減らすか、活動を増やす
代わりに、推定式を捨てる
この記事でいちばん外してほしいのは、基礎代謝の数字そのものです。
| 何を基準にするか | 精度 | 分かるまで |
|---|---|---|
| 計算機が出した基礎代謝 | ±10%に収まるのは約55%の人。1,500kcalなら誤差±150kcal | すぐ |
| 3週間の体重の動きから逆算した維持カロリー | 自分の実測値。誤差なし | 3週間 |
3週間かかりますが、その3週間は待っているだけです。いま食べている量で普通に生活して、毎朝測るだけ。新しい我慢は要りません。
そして3週間後に手に入るのは、自分専用の数字です。
たとえば1,300kcalで3週間まったく動かなかったとします。あなたの維持カロリーは、いまおおよそ1,300kcal。ここから引けば確実に減ります。計算機の1,500kcalを信じて悩んでいた時間が、まるごと要らなくなる。
「基礎代謝以下なのに痩せない」で止まっている人は、たいてい間違った数字を守ろうとして消耗しています。 守る対象を、自分で測った数字に取り替えてください。
推定式の数字を守ることが目的ではありません。実際に減ることが目的です。
まとめ
- 基礎代謝の数字は推定式の出力で、±10%に収まるのは約55%の人だけ。1,500kcalなら誤差±150kcal
- 「食べていないのに痩せない」の最大の原因は、記録と実際のズレ。痩せないと訴えた人を実測した研究では、実際の摂取は申告の約1.9倍だった
- 減量中はNEATが落ちて消費も一緒に下がる。歩数で確認できる
- 筋トレ中なら、体重が動かなくても中身が入れ替わっていることがある。鏡と服で判断する
- 体重は水分で2kg動く。7日移動平均で見なければ判定できない
痩せない理由を「意志が足りないから」に置くと、打つ手がなくなります。 実際には、5つとも測り方の問題です。 測り方の問題なら、測り直せば済みます。
出典
この記事を書くために当たった研究です。同じ「出典あり」でも重みは違うので、どういう種類の研究かを1件ずつ添えました。 メタ分析やRCTは因果を言える設計、観察研究や数理モデルはそこまで言えません。
- 観察研究Accuracy of four resting metabolic rate prediction equations: Effects of sex, body mass index, age, and race/ethnicitydoi:10.1016/j.jsams.2011.02.010Harris-Benedict式、Mifflin式、WHO式のいずれも、実測値の±10%以内に収まったのは対象者の55〜58%程度だった。裏を返せば、4割以上の人は10%以上ずれる。
- 系統的レビューComparison of Predictive Equations for Resting Metabolic Rate in Healthy Nonobese and Obese Adults: A Systematic Review. J Am Diet Assoc. 2005doi:10.1016/j.jada.2005.02.005各種の推定式を比較した系統的レビュー。Mifflin-St Jeor式が肥満の有無を問わず最も安定していたが、個人に当てはめたときの誤差は無視できないと結論している。
- ヒト実験Lichtman SW, et al. Discrepancy between self-reported and actual caloric intake and exercise in obese subjects. N Engl J Med. 1992;327:1893-1898doi:10.1056/NEJM199212313272701「低カロリー食を守っているのに痩せない」と訴える被験者の、実際の摂取量と消費量を測った研究。**実際に食べていた量を基準にすると、申告はその47±16%ぶん少なかった。**言い換えると、実際の摂取は申告の約1.9倍にあたる。運動量は逆に51±75%多く申告されていた。詳細な解析は10名の小規模研究。
- ヒト実験Levine JA, Eberhardt NL, Jensen MD. Role of nonexercise activity thermogenesis in resistance to fat gain in humans. Science. 1999;283(5399):212-214doi:10.1126/science.283.5399.212同じだけ過剰摂取しても脂肪の増え方に10倍の差が出て、その差を最もよく説明したのが非運動性活動熱産生(NEAT)の変化だった。減量中はこの逆が起きる。n=16。
- ヒト実験Olsson KE, et al. Variation in total body water with muscle glycogen changes in man. Acta Physiol Scand. 1970;80(1):11-18doi:10.1111/j.1748-1716.1970.tb04764.xグリコーゲン1gあたり約3gの水が付随することを示した古典的研究。体重が数日単位で動く主因。