極端な食事制限で、代謝は「壊れる」のか
極端な制限で基礎代謝は確かに下がる。ただし大部分は体が小さくなった分で、体組成で説明できる分を除いた適応は1日65〜230kcal程度。壊れて戻らなくなるわけではない。
「無理なダイエットをすると代謝が壊れて、二度と痩せなくなる」。
この話の出どころは、だいたい2つの研究に辿り着きます。両方とも実在します。問題は、条件のほうです。
1944年の飢餓実験
健康な男性36人を対象に、1944年から行われた研究があります(最後まで続いたのは32人)。
| 期間 | 1日の摂取 |
|---|---|
| 基準期(12週) | 約 3,490 kcal |
| 半飢餓期(24週) | 約 1,570 kcal |
| 回復期(12週) | 段階的に戻す |
半飢餓期に、基礎代謝が約40%下がったと報告されています。数字としては確かに大きい。
ただしこの40%は、1人あたりの絶対値です。体表面積あたりで見ると31%、体重あたりで見ると19%。 同じ現象を、どこで割るかで数字が変わります。
ただし同じ期間に、体重の約4分の1が失われています。
40%の中身を分ける
ここが読み方の分かれ目です。
| 下がった理由 | 中身 |
|---|---|
| 体が小さくなった | 体重が減れば、維持に要るエネルギーも減る |
| 除脂肪量が減った | 筋肉が減れば、基礎代謝はさらに下がる |
| それ以外の適応 | 「壊れた」と呼ばれている部分 |
40%のうち、大部分は上の2つです。体重の4分の1を失えば、代謝は当然下がります。
94人を1年の生活介入に割り付け、4か月時点の適応を測った研究があります。算出法によって1日およそ65〜230kcalの幅でした。33研究・2,528名の系統的レビューでも代謝適応は繰り返し観察されていますが、設計の良い研究ほど小さく出るとされています。
壊れたのではなく、小さくなった体に合わせて下がっている。 これが実際に起きていることです。
もう1つの研究の条件
「代謝は壊れる」の根拠としてよく引かれるのが、テレビ番組の参加者を6年追った研究です。
6年後も1日約499kcalの適応が残っていました。数字は大きい。ただし条件を見ると、30週で平均58.3kg減という減量です。
| この研究 | 一般的な減量 | |
|---|---|---|
| 減量幅 | 30週で58.3kg | 3か月で数kg〜十数kg |
| 人数 | 14名 | — |
週に約2kgのペースを30週続けた結果です。ここから「普通の減量でも代謝が壊れる」を導くことはできません。
実際に困るのは、代謝より食欲のほう
飢餓実験には、もう1つ重要な記録があります。回復期に、強い空腹感と過食が観察されました。
極端な制限の本当の難所はここです。代謝が65〜230kcal下がることより、戻した後に止まらなくなることのほうが、体重への影響が大きい。
代謝適応の大きさはリバウンドを予測しなかったという追跡研究もあります。
代わりに、減る速さのほうを決める
「壊れないから何をしてもいい」ではありません。極端な制限を避ける理由は、代謝ではなく別にあります。
| 速く落とすと | 起きること |
|---|---|
| 除脂肪量が多く減る | 基礎代謝が実際に下がる |
| 空腹の反動が大きくなる | 戻したときに過食が起きやすい |
| 続かない | 途中でやめることになる |
一般的な推奨は週0.5〜1kgです。この範囲なら、上の3つを避けながら進められます。
速いほうが早く終わると考えたくなりますが、戻ってしまえば所要時間は無限になります。
では、どうするか
- 減る速さを週0.5〜1kgに収める。体重の1%を超えない範囲が目安です
- 筋トレとたんぱく質で、除脂肪量を守る。落ちる分を抑えられます
- 極端に減らした時期があるなら、戻すときは段階的にする。反動が出やすい場面です
- 止まったときは代謝ではなく、まず記録と水分を確かめる
- 「代謝が壊れた」と感じたら、その値は1日65〜230kcalだと思い出す。歩数で埋められる大きさです
まとめ
- 飢餓実験で基礎代謝は約40%下がったが、同時に体重の4分の1が失われている(体重あたりで見れば19%)
- 体組成で説明できる分を除いた適応は1日65〜230kcal程度
- 6年後も499kcal残った研究は、30週で58.3kg減という条件だった
- 実際に困るのは代謝より、戻したときの食欲のほう
- 極端な制限を避ける理由は「壊れるから」ではなく、除脂肪量と反動のため
代謝は壊れません。ただし、速く落とす理由もありません。
出典
この記事を書くために当たった研究です。同じ「出典あり」でも重みは違うので、どういう種類の研究かを1件ずつ添えました。 メタ分析やRCTは因果を言える設計、観察研究や数理モデルはそこまで言えません。
- 資料Keys A, et al. The Biology of Human Starvation. University of Minnesota Press. 1950(ミネソタ飢餓実験の報告)1944年から1945年にかけて、健康な男性36人を対象に行われた研究(完了は32人)。12週間の基準期(1日約3,490kcal)、24週間の半飢餓期(1日約1,570kcal)、12週間の回復期という設計。半飢餓期に基礎代謝が約40%下がったと報告されている。**ただしこの40%は1人あたりの絶対値で、体表面積あたりでは31%、体重あたりでは19%。**同時に体重の約4分の1が失われている。回復期には強い空腹感と過食が観察された。
- ヒト実験Adaptive thermogenesis after moderate weight loss: magnitude and methodological issues. Eur J Nutr. 2022 (PMID: 34839398)doi:10.1007/s00394-021-02742-6過体重・肥満の成人94人を1年の生活介入に割り付け(介入49人・対照45人)、4か月時点の代謝適応を測った研究。**13通りの算出法による値は1日およそ65〜230kcal**で、どう算出するかによって大きくばらつくことを示している。系統的レビューではなく、単一の介入研究。
- 系統的レビューNunes CL, et al. Does Adaptive Thermogenesis occur after weight loss in adults? A systematic review. Br J Nutr. 2022;127(3):451-469doi:10.1017/S000711452100109433研究・2,528名を対象とした系統的レビュー。33研究のうち27研究で代謝適応が観察された。ただし著者らの結論は「研究の質が高い設計ほど代謝適応は小さいか有意でなく、体重が安定した時期を置いたあとでは弱まるか認められない」。
- 観察研究Fothergill E, et al. Persistent metabolic adaptation 6 years after "The Biggest Loser" competition. Obesity. 2016;24(8):1612-1619doi:10.1002/oby.2153830週で平均58.3kg減という極端な条件で、6年後も1日約499kcalの代謝適応が残っていた追跡研究。14名。「代謝は壊れる」の根拠によく使われるが、条件が一般的な減量と大きく異なる。