腹筋で腹の脂肪は落ちるのか。「部分痩せ」の研究を並べます
鍛えた部位と鍛えていない部位の脂肪を比べたメタ分析では、差はほぼゼロ。2023年の小規模試験では腹部の脂肪が7%多く減ったが、体脂肪の総量の減り方は両群で同じだった。落ちる場所は選べないが、腹筋をやめる理由にはならない。
「腹を凹ませたいなら腹筋」「二の腕は腕を動かす」。
この考え方が正しいかどうかは、実はきれいに調べられます。片側だけ鍛えて、左右の脂肪を比べればいい。
左右で比べた研究をまとめると、差はゼロ
その方法で行われた研究を集めた、系統的レビューとメタ分析があります。
結果は、鍛えた側と鍛えていない側で、局所の脂肪の減り方に有意な差なし。統合した効果量はほぼゼロでした。運動の種類、年齢、性別を問わず同じ結果です。
理屈としても説明はつきます。脂肪は分解されると血中に出て、全身を回ってから使われます。腹筋の隣にある脂肪が、腹筋に優先的に配られるわけではありません。
ここまでが、長く知られてきた答えです。
ただ、2023年に少し違う結果が出ている
過体重の男性16人を対象にしたランダム化比較試験があります。
10週間、週4日。片方の群はトレッドミル走に体幹のひねりと腹筋運動を組み合わせ、もう片方はトレッドミル走だけ。
結果は、腹部の運動をした群で体幹の脂肪量が7%減り、対照群では変化しませんでした。著者らは「部分痩せは存在する」と結論づけています。
これだけ読むと、話がひっくり返ったように見えます。ただ、同じ論文にもう一つ数字があります。
体脂肪の総量と体重の減り方は、両群で同じでした。
この2つをどう読むか
矛盾しているようで、実はしていません。
メタ分析が否定しているのは「鍛えた場所の脂肪が余分に減る」という主張です。2023年の試験が示したのは、同じ量の脂肪が、少し違う配分で減った可能性です。
総量が同じなら、腹から多く減ったぶん、どこかから減る量が少なかったことになります。
そして効果の大きさは7%。体幹の脂肪が10kgある人なら0.7kgです。10週間で。
同じ10週間で体脂肪の総量を動かすほうが、はるかに大きい。
それに、この試験の参加者は16人です。人数が少ない試験の結果は、次の試験で消えることがよくあります。いまのところ「かもしれない」の段階だと思って読むのが妥当でしょう。
腹筋運動の消費カロリーも見ておく
もう一つの角度から。
腹筋運動20分の消費を測った研究は見つけられませんでした。ただ、活動の強度から見積もるとせいぜい100kcal前後です。体脂肪1kgは7,200kcal。
(ここは実測値ではなく見積もりです。桁を把握するための数字として読んでください。)
毎日20分の腹筋を2か月半続けて、脂肪1kgぶん。 しかもその1kgは、腹から優先的には減りません。
腹を凹ませるという目的に対して、腹筋運動は効率のいい道具ではない、ということです。
では腹筋はやらなくていいのか
やる意味はあります。理由を置き換えてください。
やる意味があること
- 体幹が安定すると、他の運動がやりやすくなる。スクワットやデッドリフトの土台になります
- 減量中に除脂肪量を保つ助けになる(これは腹筋に限らず、筋トレ全般の話です)
- 姿勢が変わると、脂肪が減っていなくても見た目は変わります
気にしなくていいこと
- 「腹筋の回数が足りないから腹が凹まない」。回数の問題ではありません
- 「二の腕用」「太もも用」と分けて運動メニューを組むこと。どこを鍛えても、脂肪は全身から減ります
- 落ちる順番。これは遺伝と体型で決まる部分が大きく、自分では選べません
代わりに、同じ20分をどこに置くか
腹を凹ませたいなら、その20分の置き場所を変えるほうが効きます。
| 毎日20分の使い方 | 体脂肪への効き方 |
|---|---|
| 腹筋運動 | 消費 約100kcal(見積もり)。減るのは全身から |
| 歩く(約1.6km) | 上乗せ 約100kcal。減るのは全身から |
| 食事を見直す時間にあてる | 間食を1つ減らすだけで165kcal |
消費で見ると腹筋も歩行も似た桁です。差がつくのは3つめ。
ポテトチップス半袋をやめるだけで165kcal。腹筋20分の1.5倍以上で、しかも20分かかりません。
腹を凹ませる工程は「腹の脂肪を狙う」ではなく「全身の脂肪を減らす」です。だから入口を食事側に置くほうが早い。
では、どうするか
- 腹筋は続ける。ただし目的を体幹の安定と姿勢に置き換える
- 腹の見た目を変えたいなら、まず1日の赤字を決める。腹筋の回数より先にここ
- 20分の枠が1つしかないなら、記録と食事の組み立てに使う。効果量が一番大きい
- 落ちる順番は待つ。自分では選べません
私は減量中、腹から落ちてほしいと思っていましたが、先に減ったのは顔と腕でした。腹が変わりはじめたのは、体重が10kg近く落ちてからです。順番は選べませんでした。
まとめ
- 左右で比べた研究をまとめたメタ分析では、鍛えた側と鍛えていない側で脂肪の減り方に差はなかった
- 2023年の小規模な試験では腹部の脂肪が7%多く減ったが、体脂肪の総量の減り方は両群で同じ
- 効果があるとしても「配分が少し変わる」程度で、総量を動かすほうが大きい
- 腹筋運動20分の消費は、見積もりで約100kcal。体脂肪1kgは7,200kcal
- 腹筋をやる理由は、部分痩せ以外に置く
落ちる場所は選べませんが、落ちないわけではありません。順番を待つだけです。
出典
この記事を書くために当たった研究です。同じ「出典あり」でも重みは違うので、どういう種類の研究かを1件ずつ添えました。 メタ分析やRCTは因果を言える設計、観察研究や数理モデルはそこまで言えません。
- 系統的レビューA proposed model to test the hypothesis of exercise-induced localized fat reduction (spot reduction), including a systematic review with meta-analysis. Human Movement. 2022;23(3):1-14doi:10.5114/hm.2022.110373部分痩せを検証した研究を集めた系統的レビューとメタ分析。鍛えた側の四肢と鍛えていない側の四肢で、局所の脂肪の減り方に有意な差は見られず、統合した効果量はほぼゼロだった。運動の種類・年齢・性別を問わず同じ結果。
- RCTAbdominal aerobic endurance exercise reveals spot reduction exists: A randomized controlled trial. Physiological Reports. 2023doi:10.14814/phy2.15853過体重の男性16人を、腹部の持久的運動(トレッドミル走に体幹のひねりと腹筋運動を組み合わせる)を週4日10週間行う群と、トレッドミル走だけの群にランダムに割り付けた試験。腹部の運動群では体幹の脂肪量が7%減り、対照群では変化しなかった。ただし体脂肪の総量と体重の減り方は両群で同じだった。人数が16人と少ない点に注意。
- 総説Non-exercise activity thermogenesis (NEAT): a component of total daily energy expenditure. Journal of Exercise Nutrition & Biochemistry. 2018;22(2):23-30doi:10.20463/jenb.2018.0013消費エネルギーの構成についての総説。腹筋運動そのものの消費が小さいことを見積もるために参照した。