運動だけで痩せるのが難しいのはなぜか

結論

活動量が大きく違う集団でも、体格を揃えた1日の消費エネルギーは近い値になる。運動を増やした分がそのまま総消費に足されるとは限らず、体は別のところで節約する。運動の価値は消費以外にある。

「運動しているのに痩せない」。

このブログでは散歩の消費カロリーも立っているときの差も小さいと書いてきました。その理由にあたる話をします。

活動量が全然違う集団を比べた研究

タンザニアの狩猟採集民ハッザの1日の消費エネルギーを、二重標識水法で測った研究があります。

彼らの生活は、日々の移動と採集で成り立っています。身体活動の水準は、欧米の人よりも明らかに高い。

ところが結果はこうでした。

身体活動の水準 1日の総消費エネルギー
ハッザ 高い —
欧米 低い —
差 大きい 体格を揃えると差なし

活動量がこれだけ違うのに、総消費は近い値になっていました。

何が起きているのか

有力な説明は「体は使えるエネルギーの総量を、ある範囲に収めようとする」というものです。

運動で消費が増えると、別のどこかで節約が起きるという考え方になります。

節約されうる場所 中身
運動以外の活動(NEAT) 運動した日の残りの時間、動かなくなる
基礎的な代謝 体の維持にかける分を絞る
効率 同じ動きを、より少ないエネルギーで行う

過食させた実験でも、無意識の活動量は大きく上下していました。日常の活動量は、状況に応じて動く量です。

ただし、読み方に注意がいる

ここは行き過ぎやすいところです。

正しい読み方 違う読み方
運動を増やした分が、全部は足されない 運動しても消費は増えない
横断的な比較であって、追跡研究ではない 同じ人で証明された
短期では足し算に近く、長期で差が出る 明日から運動は無駄

運動の消費がゼロになるわけではありません。 1時間歩けばその場では消費が増えます。ただし1日や1週間の合計で見ると、期待したほど足されないことがある、という話です。

代わりに、運動を別の理由で続ける

消費を目的にすると、労力に対して見返りが小さく見えます。目的を置き換えると、話が変わります。

運動に期待すること 効き方
消費を増やす 期待より小さい
減量中に筋肉を残す はっきり効く
食欲と睡眠を整える 睡眠が延びると摂取が減る
体力がつく 日常の活動量が上がる

減量の主役は摂取のほうです。運動は、減った体重の中身を良くするために入れる、と考えると噛み合います。

そして日常の活動量は、運動とは別枠で効きます。まとまった運動時間より、座っている時間を削るほうが総量で上回ることがあります。

では、どうするか

  1. 減量の計画は摂取側で立てる。運動は上乗せではなく、中身を良くするために入れる
  2. 運動した日の残り時間を意識する。動いた日ほど動かなくなるのは、実際に起きます
  3. 歩数を見る。まとまった運動時間より、1日の総量のほうが効くことがあります
  4. 筋トレを外さない。減量中に残るものが変わります
  5. 「運動しているのに痩せない」と感じたら、まず食べた量を1週間記録する

まとめ

  • 活動量が大きく違う集団でも、体格を揃えた1日の総消費は近い値だった
  • 運動で増えた分は、別のところの節約で一部が相殺されると考えられている
  • ただし運動の消費がゼロになるわけではない。全部は足されない、という話
  • 減量の主役は摂取。運動は減った体重の中身を良くするために入れる
  • 日常の活動量は、まとまった運動とは別枠で効く

運動が無駄なのではなく、期待する場所を変えると噛み合います。

出典

この記事を書くために当たった研究です。同じ「出典あり」でも重みは違うので、どういう種類の研究かを1件ずつ添えました。 メタ分析やRCTは因果を言える設計、観察研究や数理モデルはそこまで言えません。

  1. 観察研究Hunter-Gatherer Energetics and Human Obesity. PLOS One. 2012doi:10.1371/journal.pone.0040503タンザニアの狩猟採集民ハッザの1日の消費エネルギーを二重標識水法で測り、欧米の人と比べた研究。身体活動の水準はハッザのほうが明らかに高いが、体格を揃えると1日の総消費エネルギーに差は見られなかった。横断的な比較であり、同じ人を追跡したものではない。
  2. 観察研究Daily energy expenditure through the human life course. Science. 2021doi:10.1126/science.abe5017生後8日から95歳までの6,421人を29か国で二重標識水法により測定した研究。除脂肪量を揃えた1日の消費は20〜60歳でほぼ横ばい。体格が消費の大半を決めていることを示している。
  3. ヒト実験Role of Nonexercise Activity Thermogenesis in Resistance to Fat Gain in Humans. Science. 1999;283(5399):212-214doi:10.1126/science.283.5399.212成人16人に1日1,000kcal多く食べさせた研究。無意識の活動量(NEAT)が大きく変動し、それが脂肪の増え方の差を説明した。日常の活動量が状況に応じて上下することを示している。