禁煙すると太る、は本当です。増える4〜5kgをどう見ておくか
禁煙後12か月の体重増加は平均4〜5kgで、大半は最初の3か月に起きる。ただしばらつきが大きく、16%は逆に減り、13%は10kg以上増える。平均を1日あたりに直すと約90kcalぶんで、散歩30分で上乗せされる量と同じ桁。
「禁煙したら太るから、やめられない」。
この心配は、根拠のない思い込みではありません。実際に増えます。 ただし、どれくらい増えるかまで見ると、話の見え方が変わります。
平均4〜5kg。その大半は最初の3か月
禁煙後の体重変化を扱った研究を集めたメタ分析があります。
結果は、12か月の禁煙継続で体重が平均4〜5kg増加。そして重要なのが次の点です。
増加の大半は、最初の3か月に起きています。
つまり、ずっと増え続けるわけではない。最初にまとまって増えて、そこで落ち着く形です。
平均より、ばらつきのほうが大事
同じメタ分析には、個人差の数字も載っています。
| 禁煙後12か月 | 割合 |
|---|---|
| 体重が減った | 約16% |
| 10kg以上増えた | 13% |
6人に1人は、禁煙して痩せています。
「禁煙すると太る」は平均としては正しいのですが、自分がどうなるかは、この幅の中のどこかとしか言えません。 4〜5kgという数字は、必ず訪れる運命ではありません。
なぜ増えるのか
やめたあとに何が動いたかは、測られています。
禁煙後の摂取エネルギーは、急性期で1日152kcal、6〜8週の時点で122〜227kcalの増加でした。入ってくる側が増えています。
出ていく側も動きます。ニコチンが消費エネルギーを上げることは、別の総説で扱われています。カテコールアミンの作用によるもの、とされています。やめれば、ここは下がる方向になります。
「ニコチンが食欲を抑える」の注意点
総説には、ニコチンに食欲を下げる働きがあるとも書かれています。ただし読み方に条件が付きます。
| 誰で測ったか | 結果 |
|---|---|
| 動物 | 摂食が抑えられた |
| ヒト | 喫煙者のほうが、エネルギーや脂質の摂取が同等かむしろ多い |
つまり「吸っていると食べる量が減る」は、ヒトでは確認されていません。
それでも禁煙後に体重が増えるのは、摂取が実際に増えているからです(上の152kcal)。経路の説明としては、動物実験のほうを持ってこなくても成立します。
吸っていた量で、増え方が違う
同じ総説に、本数との関係も出ています。
| 1日の本数 | 禁煙後の体重増加 |
|---|---|
| 1〜14本 | 2.0 kg |
| 15〜24本 | 6.0 kg |
| 25本以上 | 10.3 kg |
これは「本数と増加量」の関係であって、摂取量の話ではありません。本数が多かった人ほど、増える幅も大きくなります。
4〜5kgを、1日あたりに直す
体脂肪1kgは約7,200kcal。4.5kgなら約32,400kcal。これを1年(365日)で割ります。
1日あたり、約90kcal。
この数字は、このブログで何度か出てきました。
- 30分の散歩で上乗せされるぶん:100kcal台
- ビール1本(500ml):約200kcal
- おにぎり1個:約180kcal
つまり禁煙で増えるぶんは、散歩30分でだいたい釣り合う大きさです。手のつけようがない量ではありません。
数字を出すと、何が変わるか
「禁煙すると太る」だけを聞くと、際限なく増えていく絵が浮かびます。だから怖い。
実際は、上限のある、前半に集中した、1日90kcalぶんの変化です。しかも6人に1人は増えません。
この記事で減らしたい心配事は、そこです。太るかどうかを理由に決めるほど、体重側の差は大きくありません。
体重の話と、健康の話は別
このブログで扱えるのは体重の数字までです。禁煙そのものの健康上の意味は、体重の増減とは比べる対象が違います。 そして禁煙の進め方は医療の領域なので、ここには書きません。
禁煙外来という選択肢があること、体重の増加を抑える方法も含めて相談できることだけ、書いておきます。持病のある人、服薬中の人は特に、主治医に先に相談してください。
体重側でできること
もし増えるのが気になるなら、やることは普通の減量と変わりません。
- 最初の3か月だけ、記録をつける。増加が集中するのはここです
- 食後の一服を、食後の散歩に置き換える。15分で約80kcal。時間を新しく作らずに済みます
- 体重を毎日測って、7日平均で見る。日々のブレは0.5%前後あります
- 禁煙と減量を同時に始めない。両方きついと、どちらも続きません
- 3か月を越えたら、そこから普通に減量に入る。増えたぶんは後から落とせます
喫煙に使っていた時間が、まるごと空きます
見落とされがちなのがここです。
1本5分として、1日10本なら50分。20本なら100分。禁煙するとこの時間が空きます。
しかも空き方に特徴があって、食後に集中しています。 昼食のあとの一服、夕食のあとの一服。ここがそのまま空く。
食後は、もともと歩きやすい時間帯です。
| 昼食後の15分 | 上乗せされる消費 |
|---|---|
| 喫煙所で一服 | 0 kcal |
| そのぶん歩く(約1.2km) | 約80 kcal(体重70kg) |
歩行の消費は1kmあたり体重1kgにつき約0.96kcal。70kgの人が15分歩けば80kcal前後です。
増えるぶんが1日90kcalなので、これだけでほぼ釣り合います。
新しく時間を作る必要がないのが大きい。すでに一服に使っていた時間を、そのまま置き換えるだけです。手持ち無沙汰が埋まるという副産物もあります。
なぜ「食べる量を減らす」ではなく「歩く」なのか
増えるぶんは1日あたり約90kcal。これを打ち消す方法は2つあります。
| やること | 削れる量 | 禁煙中にできるか |
|---|---|---|
| 食べる量を1日90kcal減らす | 90 kcal | 難しい。食欲が上がっている時期 |
| 30分歩く | 約100 kcal | できる |
禁煙で増えるのは、食欲が上がることと消費が下がることの両方でした。
食欲が上がっている時期に食事を削るのは、上がった食欲と正面からぶつかることになります。一方、消費のほうは食欲と関係なく足せる。
同じ90kcalを、ぶつからない側から取る。 それだけの話です。
しかも歩くほうには副産物があって、手持ち無沙汰の時間が埋まります。禁煙中はここも効きます。
私は喫煙者です。禁煙に取り組んだときも、「食欲が増える」と先に知っていたおかげで、食事のたびに意識できました。増えるものだと分かっていれば、身構えられます。何も知らずに食欲だけが上がってくるのとは、だいぶ違いました。
まとめ
- 禁煙後12か月の体重増加は平均4〜5kg。大半は最初の3か月に起きる
- ばらつきが大きく、16%は逆に減っている。13%は10kg以上増える
- 禁煙後の摂取は1日122〜227kcal増える。消費が下がる側も働く
- 「吸うと食欲が減る」が示されたのは動物実験で、ヒトでは確認されていない
- 平均を1日あたりに直すと約90kcal。食後の一服を15分の散歩に置き換えれば、ほぼ釣り合う
- 禁煙の進め方は医療の領域。ここでは扱えない
増える量には上限があります。あとから落とせる大きさです。
出典
この記事を書くために当たった研究です。同じ「出典あり」でも重みは違うので、どういう種類の研究かを1件ずつ添えました。 メタ分析やRCTは因果を言える設計、観察研究や数理モデルはそこまで言えません。
- 系統的レビューWeight gain in smokers after quitting cigarettes: meta-analysis. BMJ. 2012doi:10.1136/bmj.e4439禁煙後の体重変化を扱った研究を集めたメタ分析。12か月の禁煙継続で体重は平均4〜5kg増え、その大半は最初の3か月に起きる。ばらつきが大きく、禁煙した人の約16%は体重が減り、13%は10kg以上増えたと報告されている。研究間の差も大きい。
- 総説Tobacco Smoking, Eating Behaviors, and Body Weight: A Review. Current Addiction Reports. 2019;6(3):191-199doi:10.1007/s40429-019-00253-3喫煙と食行動・体重の関係を扱ったナラティブレビュー。ニコチンには食欲を下げ代謝率を上げる働きがあると記載されている。ただし**摂食の抑制が示されたのは動物実験**で、ヒトについては「喫煙者は非喫煙者と比べ、エネルギー・脂質・高エネルギー密度食品の摂取が同等かむしろ多い」と明記されている。禁煙後の体重増加は3か月で平均2.85kg、12か月で4.67kg。1日の本数と増加量には用量反応があり、1〜14本で2.0kg、15〜24本で6.0kg、25本以上で10.3kg。禁煙後の摂取エネルギーは急性期で1日152kcal、6〜8週で122〜227kcalの増加。
- 総説Nicotine and energy balance: A review examining the effect of nicotine on hormonal appetite regulation and energy expendituredoi:10.1016/j.appet.2021.105260ニコチンがエネルギー収支に与える影響についての総説。ニコチンは消費エネルギーを上げるとされ、その働きはカテコールアミンの作用によるものと説明されている。
- 系統的レビューA meta-analysis of pedometer-based walking interventions and weight loss. Ann Fam Med. 2008;6(1):69-77doi:10.1370/afm.761歩行プログラムの試験9件・計307人をまとめたメタ分析。減量幅は週あたり0.05kg。禁煙後の体重増加を、日常の運動で扱える大きさかどうか比べるために参照した。