「夜9時以降は食べてはいけない」の9時に、根拠はありません
食事を4時間遅らせると消費エネルギーは1日59kcal下がる。実在するが、おにぎり半分ぶん。本当の問題は空腹感が倍になって総量が増えることで、時計を見張るより、夜に食べすぎない仕組みを作るほうが効く。
減量中、私がいちばん長く縛られていたルールがこれでした。21時を過ぎたらもう食べない。
残業で帰りが遅くなった日は、それだけで「今日は失敗した」という気分になる。空腹のまま寝て、翌朝どか食いする。そんなことを何度か繰り返していました。
このルール、どこから来たのか調べてみたんです。行き着いたのは、マウスの培養細胞の研究でした。
BMAL1の話は、ヒトの研究ではない
日本語で「夜に食べると太る」を検索すると、かなりの確率でBMAL1という名前が出てきます。体内時計に関わるタンパク質で、夜になると増える。だから夜に食べると脂肪として蓄えられる——という説明です。
大元になっているのは2005年の研究で、これはよく引かれるだけあって、しっかりした論文です。ただし対象はマウスの培養細胞でした。
さらに、示された内容も引用のされ方とは少し違います。実際に分かったのは「BMAL1を減らすと脂肪細胞がうまく育たない」ということ。つまりBMAL1は脂肪細胞ができるのに必要な部品だった、という話です。
「BMAL1が多い時間に食べると太る」とは、書かれていません。
細胞でのはたらきが分かったことと、ヒトが夜9時にごはんを食べたら太ることのあいだには、まだ相当な距離があります。このブログでは動物や細胞の研究に「動物・細胞」と印をつけていますが、それはこういう飛躍を見分けるためです。
では、ヒトではどうなのか
ちゃんとヒトで調べた研究があります。しかもかなり丁寧な設計のものが。
過体重・肥満の16名に、まったく同じ食事を2通りの時刻で摂ってもらうという試験です。ひとつは早い時刻、もうひとつは約4時間遅い時刻。栄養だけでなく、運動量・睡眠・浴びる光まで揃えてあります。同じ人が両方を経験するので、体質の差も相殺されます。
結果、遅い条件では確かに差が出ました。
| 測ったもの | 遅く食べたとき |
|---|---|
| 起きているあいだの消費エネルギー | −59.4kcal(−5.03%) |
| 空腹を感じる確率 | およそ2倍(1割→2割) |
| 24時間の深部体温 | わずかに低下 |
時刻そのものに効果はあります。 ここは正直に書いておきます。「夜に食べても関係ない」は言いすぎです。
ただ、59kcalがどれくらいかを見てください
おにぎりが1個およそ180kcal。59kcalは、その3分の1くらいです。
しかもこれは、食事を4時間ずらして得られた差です。19時の夕食を23時にしたときの話であって、21時を21時半にしたときの話ではありません。
比較してみます。
| kcal | |
|---|---|
| 食事を4時間遅らせたときの消費減 | −59 |
| 仕事帰りにコンビニで買うプロテインバー1本 | +200前後 |
| 飲み会1回 | +800〜1,500 |
時計の針より、口に入るもののほうが1桁大きい。
21時を数分過ぎたことを気に病んでいる時間があったら、その日の総量を見たほうが早い。私が長いこと見落としていたのは、まさにここでした。
本当に効いているのは、空腹感のほう
この研究でもうひとつ重要なのが、空腹を感じる確率が2倍になっていたことです。
こちらは59kcalのような直接の損失ではありません。ただ、間接的にはもっと効きます。空腹が2倍になれば、翌日の食事量は自然に増えるからです。1日200kcalよけいに食べれば、時刻の差など簡単に埋まります。
つまり、夜に食べたぶんが特別に脂肪になるわけではありません。 遅く食べると、結果的に食べる量が増える。問題はそちらでした。
同じ「夜は控えめに」という結論でも、理由がまるで違います。前者なら時計を見張るしかありませんが、後者なら打つ手があります。
「夜食べる人は太っている」は本当。ただし
日本人を対象にした観察研究でも、遅い夕食や就寝前の間食と過体重の関連が報告されています。この関連自体は、おそらく本当です。
ただ、観察研究で分かるのは関連までで、因果ではありません。夜遅くに食べている人は、たいてい他のことも重なっています。
- 帰宅が遅く、睡眠時間が短い
- 朝食を抜きがち
- 外食や中食が多い
- 飲酒の機会が多い
このどれもが体重を押し上げます。「夜に食べたから太った」のか「そういう生活だから太った」のかは、観察研究では切り分けられません。
では、どうするか
時計を見張るのはやめていいと思います。代わりにやることが3つ。
- 夕食の時刻より、1日の総量を見る。 遅くなった日は、その日の合計がいつも通りかを確認すれば十分です
- 遅くなると分かっている日は、夕方に軽く入れておく。 空腹が2倍になる前に手を打つほうが、夜に我慢するより楽です
- 遅い時間に食べるなら、タンパク質と食物繊維を厚めに。 満腹感が続きやすく、その後の追加を防げます
どれも「何時までに食べ終える」より、ずっと守りやすいはずです。
まとめ
- 「BMAL1が増える夜は太る」の出どころはマウスの培養細胞の研究。しかも示されたのは「BMAL1がないと脂肪細胞が育たない」で、引用のされ方とは向きが違う
- ヒトで4時間ずらした試験では、消費エネルギーが1日59kcal(5%)低下した。実在するが、おにぎり3分の1ぶん
- 同じ試験で空腹を感じる確率が2倍になった。遅い食事の本当の問題はこちら
- 観察研究の「夜食べる人は太っている」は関連であって因果ではない。睡眠・朝食・外食が一緒についてくる
- 21時という数字に根拠はない。 総量を見るほうが、時計を見るよりはるかに効く
私はいまでも、遅くなった日は夕方にゆで卵をひとつ食べておくようにしています。21時を過ぎたかどうかは、もう確認していません。
出典
この記事を書くために当たった研究です。同じ「出典あり」でも重みは違うので、どういう種類の研究かを1件ずつ添えました。 メタ分析やRCTは因果を言える設計、観察研究や数理モデルはそこまで言えません。
- RCTVujović N, et al. Late isocaloric eating increases hunger, decreases energy expenditure, and modifies metabolic pathways in adults with overweight and obesity. Cell Metab. 2022doi:10.1016/j.cmet.2022.09.007過体重・肥満の16名に、まったく同じ食事を「早い時刻」と「約4時間遅い時刻」で摂ってもらうランダム化クロスオーバー試験。栄養・運動・睡眠・光まで揃えてある。遅い条件では起きているあいだの消費エネルギーが59.4kcal(5.03%)少なく、空腹を感じる確率がおよそ2倍になった。16名と小規模で、期間も短い。
- 動物・細胞Brain and muscle Arnt-like protein-1 (BMAL1), a component of the molecular clock, regulates adipogenesis. Proc Natl Acad Sci USA. 2005 (PMID: 16093318)doi:10.1073/pnas.0502383102日本で「夜に太る」の根拠としてよく引かれる研究。ただし対象はマウスの培養細胞で、ヒトではない。しかも示したのは「BMAL1を減らすと脂肪細胞が育たない」であって、「BMAL1が多い時間に食べると太る」ではない。
- 観察研究Potential Association between Breakfast Skipping and Concomitant Late-Night-Dinner Eating with Metabolic Syndrome and Proteinuria in the Japanese Population. 2014日本人を対象に、朝食を抜くことと夜遅い夕食が重なる習慣とメタボリックシンドロームの関連を報告した観察研究。関連は言えるが、因果は言えない。
- 観察研究The Association of Having a Late Dinner or Bedtime Snack and Skipping Breakfast with Overweight in Japanese Women. 2019日本人女性における遅い夕食・就寝前の間食・朝食欠食と過体重の関連を報告した観察研究。こちらも関連であって因果ではない。