ダイエット情報を見抜く5つの質問

結論

健康情報の誇張は、5つの質問でほぼ仕分けできる。誰で測ったか、何を測ったか、カロリーを揃えたか、どれくらいの大きさか、反対の結果はあるか。特に「誰で測ったか」と「どれくらいか」の2つで大半が落ちる。

ダイエットの情報は、毎年新しいものが出てきます。全部を覚えるのは無理です。

ただ、誇張されたものには共通の作り方があります。5つ質問すれば、だいたい仕分けできます。

このブログで記事を書くときに毎回当てている手順を、そのまま置いておきます。

もとは自分のために作ったものです。私が信じて損をしたことが5つあります。 そのどれもが、この5つの質問のどこかで引っかかるものでした(信じて損をしたこと5つ)。

質問1:誰で測ったのか

最初に見るのはここです。マウスなのか、ヒトなのか。

例を出します。「夜9時以降に食べると太る」の根拠としてよく引かれる研究があります。BMAL1というたんぱく質の働きを調べたものです。

実際に読むと、こうなっています。

語られ方 論文がやったこと
BMAL1が多い時間に食べると太る マウスの培養細胞を使った実験
夜9時以降が危ない BMAL1を減らすと脂肪細胞が育たない、を示した

ヒトの話ではありませんし、食べる時刻の実験でもありません。2段階ずれています。

動物や細胞の研究に価値がないのではなく、ヒトの行動の根拠にはできないということです。

質問2:何を測ったのか

同じ「+82kcal」でも、意味が3通りありえます。

測ったもの 読者にとっての意味
食べた量 自分で減らせる
吸収率 同じものを食べても多く入る。自分では動かせない
消費エネルギーの低下 出ていくほうが減る

どれなのかが書かれていない記事は、読者が自分に都合のいいほうに読みます。

数字を見たら、その1行あとに「何を測った値か」が書いてあるかを確かめてください。無ければ、その数字はまだ判断に使えません。

質問3:カロリーを揃えて比べたのか

「この食べ方で痩せた」という話の大半は、ここで決着します。

揃えずに比べれば、食べる量が減ったほうが痩せます。それはその食べ方の効果ではなく、量の効果です。

肥満の成人19人を病棟に入れた研究があります。総カロリーを揃えたうえで、糖質だけを削る期間と脂質だけを削る期間を比べたものです。こういう設計で初めて、栄養素そのものの効果が見えます。

揃えていない研究が悪いわけではありません。ただ、そこから「◯◯が太る原因だ」は言えないというだけです。

質問4:どれくらいの大きさなのか

「効果が確認された」だけ書いてある記事は、効果量を隠しています。

このブログで扱った例を並べます。

主張 実際の大きさ
立っていると消費が増える 1時間で約9 kcal
夜遅く食べると消費が落ちる 1日59 kcal
サウナで消費が増える 入浴1回で数十kcal

どれも実在します。そして、どれも1日の収支を動かすには小さすぎます。

「あるか、ないか」で語られているうちは、たいてい小さい。 大きければ数字が出てきます。

質問5:反対の結果を出した研究はあるか

1つの研究で決まる話は、ほとんどありません。

成人604,509人ぶんのデータを集めたメタ分析では、睡眠が短い人の肥満のオッズが1.55倍でした。これは起きやすさの比であって、人数が1.55倍になるという意味ではありません。関連としては強い。

ただしこれは観察研究です。短い睡眠が肥満を招いたのか、太っているから眠りが浅いのか、この解析からは言えません。

都合のいい研究だけを並べるのは簡単です。反対の結果を探したかどうかが、書き手を見分ける材料になります。

代わりに、5つを順番に当てる

覚えることは増やさなくていいので、この順番で当てるだけにしてください。

順 質問 落ちたら
1 誰で測った? マウス・細胞なら、ヒトの根拠にはならない
2 何を測った? 書いていなければ、判断に使えない
3 カロリーを揃えた? 揃えていなければ、量の話
4 どれくらい? 数字が出てこなければ、たいてい小さい
5 反対の結果は? 触れていなければ、片方だけ見ている

1と4だけで、かなりの数が落ちます。 全部やる時間がないときは、この2つで足ります。

そして、通ったものについては気にしていい。 5つ当てる目的は疑うことではなく、気にするものを減らすことのほうにあります。

では、どうするか

  1. 数字を見たら、まず「誰で測ったか」を探す。書いていない記事は、そこで判断を保留する
  2. 効果の大きさを探す。「1日◯kcal」「◯kg」が出てこないものは、後回しでかまいません
  3. 「カロリーは揃えたのか」を1回だけ考える。多くの主張はここで量の話に戻ります
  4. 気になった研究は、要約サイトではなく元の論文のタイトルまで辿る。設計が書いてあります
  5. 5つを通ったものだけ、生活に入れる。通らなかったものは、気にしなくていい項目に移す

まとめ

  • 誇張された情報には共通の作り方がある。5つの質問で仕分けできる
  • 誰で測ったか。マウスの細胞実験がヒトの根拠として使われている例は実在する
  • 何を測ったか。同じkcalでも、食べた量・吸収・消費で意味が変わる
  • カロリーを揃えたか。揃えていなければ、それは量の話
  • どれくらいか。数字が出てこない主張は、たいてい小さい
  • 反対の結果に触れているか。片側だけ並べるのは簡単

疑うための道具ではなく、気にしなくていいものを見分けるための道具として使ってください。

出典

この記事を書くために当たった研究です。同じ「出典あり」でも重みは違うので、どういう種類の研究かを1件ずつ添えました。 メタ分析やRCTは因果を言える設計、観察研究や数理モデルはそこまで言えません。

  1. 動物・細胞Brain and muscle Arnt-like protein-1 (BMAL1), a component of the molecular clock, regulates adipogenesis. Proc Natl Acad Sci USA. 2005 (PMID: 16093318)doi:10.1073/pnas.0502383102「夜に食べると太る」の根拠としてよく引かれる研究。対象はマウスの培養細胞で、ヒトではない。示したのは「BMAL1を減らすと脂肪細胞が育たない」であって、「BMAL1が多い時間に食べると太る」ではない。
  2. 観察研究Meta-Analysis of Short Sleep Duration and Obesity in Children and Adults. Sleep. 2008;31(5):619-626doi:10.1093/sleep/31.5.619成人604,509人ぶんのデータを集めたメタ分析。睡眠時間が短い人は肥満のオッズが1.55倍だった(小児では1.89倍)。オッズ比であって、人数が1.55倍になるという意味ではない。観察研究なので、短い睡眠が肥満を招いたのか、その逆か、別の要因が両方に効いているのかは言えない。
  3. RCTCalorie for Calorie, Dietary Fat Restriction Results in More Body Fat Loss than Carbohydrate Restriction in People with Obesity. Cell Metabolism. 2015doi:10.1016/j.cmet.2015.07.021肥満の成人19人を代謝病棟に入れ、総カロリーを揃えたうえで糖質だけを削る期間と脂質だけを削る期間を比べた研究。カロリーを揃えて初めて「その栄養素の効果」が見える、という設計の例として挙げた。
  4. ヒト実験Role of Nonexercise Activity Thermogenesis in Resistance to Fat Gain in Humans. Science. 1999;283(5399):212-214doi:10.1126/science.283.5399.212成人16人に1日1,000kcal多く食べさせ、8週間続けた研究。脂肪の増え方に10倍の差が出て、その差を説明していたのは無意識の活動量だった。効果の「大きさ」を出している研究の例。